「これは決して、イラク戦争時の欧米「だけ」を扱ったポリティカル・サスペンスではなく、現在にも繋がる問題を扱った作品。」オフィシャル・シークレット yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
これは決して、イラク戦争時の欧米「だけ」を扱ったポリティカル・サスペンスではなく、現在にも繋がる問題を扱った作品。
2003年に勃発したイラク戦争は、大量破壊兵器をイラクが保持しているという、主に米国が主唱した大義名分が発端となっています。しかし現在では、多くの情報・資料が、この米国の主張が根拠のないものだったと暴露しました。だが、日本を含め多くの報道機関は、米国の大義名分を覆すどのような証拠があったのかについてあまり具体的に言及してきませんでした。本作はそうした米国の戦略上欺瞞と、それに同調した英国政府を一人の職員の目を通して描いています。
キーラ・ナイトレイ演じる主人公、キャサリン・ガンはGCHQ(英政府通信本部)の政府職員なので、もちろん当時の世界情勢は国家機密を含めて熟知しています。そんな一般の人々とは隔絶した立場にある人物を主人公にしたポリティカル・サスペンスは、しばしば難解な筋立てとなり、かつ背景状況の熟知を要求するなど、観客を取り残しがちになります。しかし本作では、彼女が夫と報道番組を見るという形で、さりげなく当時何が起こっているのかを説明しています。これはなかなか上手い演出だと感心しました。
じゃあこの物語は17年も前の、しかも遠く英国政府内の出来事として片付けることができるのか、というと、決してそうではありません。本作が投げかける重要な問いは、「国家への忠誠義務を負った公務員が、国民のためにあえて政府に背くことは正当なのか」です。もちろんこの問いは、ここ数年来、日本でも米国でも、世界のあらゆる政治的状況で繰り返し取り上げられてきました。そのため本作が語る問題を、現在の私たちと地続きであることを実感する観客は少なくないでしょう。なぜ今、この作品が作られなければならなかったのか、強い必然性があったのです。
自分の信念を曲げないキャサリン・ガンの、率直で力強い言葉に大いに勇気づけられますが、結末間際にある人物が口にする、この事件の背景動機には唖然というか慄然としました。そしてレイフ・ファインズのひとこと。よく言った!