「軽めの青春映画な仕上がり」小説の神様 君としか描けない物語 sayさんの映画レビュー(感想・評価)
軽めの青春映画な仕上がり
小説を先に読んだ。実際に作品中に主役2人が書いた小説が書かれることがないので
たとえば漫画の一部やストーリーが作中で出てきたバクマン。に比べて
「傑作を書いた」「有名作家」の一言でそれが事実になるのが正直もやもやした。
”天才”たちの苦悩というより勤労学生の大変さが主軸に感じた。
自分が創作物に触れるとき、泣きたいとか泣かないためにとは思っておらず
ただ面白い物語を見たいだけなので、登場人物たちの考えには共感できないところも多かった。
映画はその辺りのことがばっさりカットされ、部長と後輩のキャラもかなり変わっており
メインキャラが4人という形だ。
イメージ映像も多い分、軽めで主演2人がメインになっていて
わかりやすく見やすくなっていると思う。
詩凪はキャスティングが発表されたとき、可愛らしくて一見完璧で強気というキャラなので
橋本環奈さんはぴったりだと思い、公開を楽しみにしていた。
小説がテーマなので、章立て構成なのも面白い。
ただ、詩凪の章でもう少し彼女のトラウマに触れるかと思ったら匂わせ程度だった。
成瀬と九ノ里も完全にサブキャラなので、正直章立てにした割にはエピソードが浅い。
小説版で、
詩凪と千谷の言い合いを、成瀬が『小説を愛するが故の怒り』と認識したのが好きだったのに
映画では付き合ってるんですよね、と賑やかしキャラになっていたのも残念。
個人的には大人たちがひどい、頼れない感じのキャラで
お母さんだけがとても良かった。原作のお母さんより常識的で優しくてよかった。
小説で唯一好きだと思った九ノ里のキャラが、映画ではかなり変えられているようで
予告を見たときから心配していたし、実際全く別人になっていたものの
映画版でもとても好きになった。
九ノ里の章でもさらっとしか触れてはもらえなかったが
周りからはなんでもできると思われていて、自分でも器用だとは思うけれど
器用貧乏なだけで、自分が欲しいものは手に入らないという痛さは刺さる。
パンフレットによると彼のテーマ曲はないものねだりらしく、
あるものに目を向けるべきという意図だったようなのでちょっとがっかりした。
他人はそう見えても、九ノ里の中で一番欲しいものが小説の才能なら
彼の苦悩は実は深いし、本人にしてみれば他ができることなど必要もないのに
他人にたとえ相談したところで贅沢だなと言われてしまうのも辛いと思う。
脇役で基本的にアドリブを求められて陽気に喋るキャラになっていた九ノ里だが
彼の章で内面を少し晒した時の一瞬の辛そうな表情を経ての
詩凪の元へ走る千谷を見送る九ノ里の複雑な思いの込められた笑顔がとても良かった。
九ノ里役の佐藤流司さんも、九ノ里は陽気に見せていて悩みを見せたりはしないだろう
と思って演じておられたそうで素晴らしかったと思う。
もっと九ノ里を見たいと思ってしまった。