「普遍的な成長物語」ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語 andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
普遍的な成長物語
6/12公開だからもう絶対終わってると思ったら唯一TOHOシネマズ日比谷で上映していた。滑り込み鑑賞。
言わずと知れた名作「若草物語」。幼い頃与えられた児童文学全集に入っていたやつであるからして当然朧げに筋は覚えているが、四部作だったのは最近知った。「赤毛のアン」並の大河小説だったわけである。「赤毛のアン」シリーズはほぼ全部読んだんだけどな...。
シアーシャ・ローナンが主人公のジョーなので、年代的には「続・若草物語」だと思っていたが、物語は時代を自由に行き来し、「輝ける少女時代」と「厳しき(損な)青年時代」を描き出す。
この自由な時間の行き来により、観る側はよりリアルに登場人物に「触れる」ことができる。
原作は非常に古典的かつ道徳的な感じだった記憶があるが、この映画の四姉妹の明るさといったら!若い女の子って本当になんでも楽しむよね、というほっこり気分にさせられる。
四姉妹は全て個性の強さが際立っているけれど、やはりジョーとエイミーの対比が鮮やか。お互い根底に同じものを持っているようで、決定的に違う道を選ぶふたり。いちばん互いを意識しているふたり。ジョーの野心もエイミーの野心も形は違えど本質はどこか似ていて、そしてその野心から自身の「本当」を掴もうとするところも同じ。技巧的というよりは愚直なまでの対比だけれど、女性の様々な側面を見せることに成功していると感じた。
原作の(最初の)エイミーはおしゃまで我が強く、やけに鼻を気にかけていた印象だが、フローレンス・ピューはその少女時代と成長して淑女となった姿の演じ分けが恐ろしく素晴らしい。
虚栄心をどこかで隠しきれないけれど善良なメグ(エマ・ワトソンのどことなく型に嵌ってるけど善良な感じが素晴らしい)、物静かだけど圧倒的な意志を持つ圧倒的な天使ベス(ベスのエピソードは私が原作で最も愛するところである)もとにかく素晴らしい。
強そうに見えて、恐らくいちばん内部の脆さを抱えているジョー。メグが結婚するときの懇願。家族がいればよかったのに、家族はずっと一緒ではいられない。ベスを喪った結果、彼女が「愛されたい」「間違っているとは思わないけどたまらなく寂しい」と吐露する場面。酷く心を揺さぶられた。
人生は常に手探りだ。要領の悪すぎるジョーに「もう少し巧く立ち回れば...」などと思ってしまうけれど、実はそれは簡単ではない。あの輝ける少女時代はどこかで終わり、決してハッピーエンドではない長い人生が待っている。
あのラストの虚実(?)を織り交ぜた落とし込み方がグレタ・ガーヴィグっぽいなと思った。ずーっと損な役回りのジョーが一矢報いる場面として観た。
ティモシー・シャラメは美しいがとことん格好悪い。とにかくエイミーに諭される傷心でだらしないティモシー・シャラメが良かった。明るいローリーより圧倒的にあのダメローリーの方が似合っている...。
ローラ・ダーンが途中で豹変していきなり滔々と語り出したりしないかなと思って観てしまった。そんなことは当然なかった。まあ若草物語だしな。
アカデミー賞では衣装デザイン賞受賞なだけあって、皆の服装も物語にマッチして素晴らしかった。