劇場公開日 2020年6月12日

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「本歌取」ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語 Kjさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0本歌取

2020年6月12日
iPhoneアプリから投稿

久しぶりの映画館。それに応える出来栄え。とめどなく奏でられる美しい音楽、素晴らしい調度品や衣装。映画の世界にどっぷり浸れる。
1949年版を予習していたのが成功だったか失敗だったか。一度しか与えられぬ機会だから答えは分からないが、個人的には正解。時系列に沿わず、パッチワークのようにひとつひとつのエピソードが編み直されたようで、ベースに1949年版があるだけに、それぞれのエピソードの意図が鮮やかに浮き上がってくる。「ああっ、ここでこの台詞を入れてくるか」とか、「この2人の関係をこういうシーンで描くか」「こことここを繋ぐか」とか。テンポの早い会話のやりとりは情報量が多く、既に知っているストーリーを立体的に描き出す。
思い入れのある四姉妹。終始、目が乾くことがない。イメージと違うという印象を与えてしまうと心が離れるものであるが、グレタガーウィックの解釈、そしてこの人しかいないと思わせるだけの配役。シアーシャローナンの変化に富んだ表情の豊かさ、ローラダーンとは本当の母娘のよう。エマワトソンはこれぞメグ。エリザスカンレンのベスの目力の強さ。そして驚いたのはフローレンスピューのエイミー。時代の前後で表情が子供と大人に全く変わる。母親に受賞は阻まれたがアカデミーノミネートも納得。ローリーとの展開も違和感を抱かせない。彼女の判断と女の道。話全体を豊かなものとしている。
端役でも大役。メリルストリープもマーチおばさんを好演。ティモーシーシャラメは姉妹の演技をそれぞれ受けとめる。冒頭のシアーシャとのダンスシーンの軽やかさ。既にこの映画はただものではない。作り手がこの四姉妹の物語の普遍性を現代に蘇らせようと全力の演技で応じているようだ。
イメージとは違ったのはラストの展開。名シーンへの期待を裏切ってくる勇気の太さ。現代においてはこう描くべきという作り手の強い意志。全ては作者オルコットと全ての女性に捧げる。その意気上等。

Kj