劇場公開日 2020年3月6日

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「筆を折ったシェイクスピア、良き家庭人になる!」シェイクスピアの庭 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0筆を折ったシェイクスピア、良き家庭人になる!

2022年7月23日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

シェイクスピアの晩年を描いた映画です。
昼間と夜間ではまるで別の顔を見せる映画でした。
夜間は暖炉や蝋燭の灯りで人物がスポットライトで浮かび上がり、まるで舞台の会話劇。
昼間のストラスフォードの風景は、美しい田園や肥沃な平野がひろがり、
四季には紅葉や枯れ草の庭、
ひっそりとした森そして小川は静物画。
雲のグラデイエーションにもため息をつきました。
そして庭造りに没頭するシェイクスピアは耕す農夫。
その《昼と夜のコントラスト》が絶妙に仕組まれています。

1613年。シェイクスピアの作品を上演するグローブ座が全焼した。
失意のシェイクスピアは生まれ故郷のストラトフォード=アポン=エイヴォンに戻ります。

『シェイクスピアの庭』2019年。監督・主演ケネス・ブラナー。
原題は『All Is True 』これは『ヘンリー五世』の題名と同じとか。

断筆して帰郷したシェイクスピアは、17年前に亡くした長男ハムネットのために『庭』を造ることを思い立つのでした。
20年以上の間、疎遠だった妻や娘2人が、揉め事や、告白をして晩年の3年間は、
思いかげずに現実的なものになります。
不倫の裁判だの、次女ジュディスの告白だの。
最愛のハムネットの死・・・その真相は以外なものでした。

さて庭のことですが、
実際にシェイクスピアの戯曲には170種類の植物が登場して重要な役割を果たすそうです。
しかしこの映画で素晴らしい庭園を期待して見ると肩透かしです。
庭造りに素人のシェイクスピアは苦戦するばかりです。
『シェイクスピアの庭』とはシェイクスピアの「家庭」の暗喩として付けたのなら、
中々気の利いた題名です。

20年近い妻アン・ハサウェイとの別居(あれれ、誰かさんと同姓同名!!)
家族とまったく顔を合わせなかったシェイクスピアは、いかにして20年間の不在を埋め合わせていくか?
ほとんど「父帰る」の世界ですが、湿めっぽくはならない。
妻アンはジュディ・デンチが扮しています。
字が読めない設定ながら、知的な皮肉で夫シェイクスピアと互角で論戦を張ります。
次女のジュディスの弟ハムネットへの対抗心。
彼女は詩心のある詩人。
この時代、女の詩人なんてあり得ないとは?!
そうです、この時代(エリザベス一世の統治する時代からジェームズ国王時代・ルネッサンス真っ只中)
女性の識字率は日本に遠く及ばず、男子を産まぬ女になんの価値も無し・・・
とは、まったくの男尊女卑。女は跡取りにはなれない。
女王陛下の国が実は、なんて・・・・驚きです。

監督・主演のケネス・ブラナーは「英国一のシェイクスピア俳優」と呼ばれる。
初監督作が『ヘンリー五世』でした。
満を辞しての本作品です。
付け鼻が立派。額は禿げ上がり肖像画と似た面持ち。
ケネス・ブラナーが原型を留めていないのも見所です。
ラストは、アレレ!!の、愛らしさ!

重厚なコスチューム・プレイをご堪能下さい。

琥珀糖