「ひとくず」ひとくず 圭さんの映画レビュー(感想・評価)
ひとくず
本当は0点にしたいし、観た記憶をなくしたい。不愉快で後悔している。
スマホがでてくるので現代劇だとかろうじてわかるが、昭和のテレビ映画を観てるのかと錯覚する。2020年にやる意味がどこに?
「昭和」という感想をみかけ、敢えての昭和的演出で新鮮味を出しているのかと期待したが、ただただ古臭い懐古趣味だった。
児童虐待をテーマに見せかけているが、実態を調査をしたように感じられる描写はなく、わかりやすいワイドショー的な表現に始終する。
愛着障害による虐待の連鎖については、理解も描写も浅く、「かわいそうな親子」「かわいそうな俺」の演出にすぎない。
主人公はいわゆるアウトローであるが、それが魅力となっていない。社会性のないまま運良く世渡りしているにすぎず、「俺のかわいそうな子供時代」にとらわれ続けている。それゆえに、虐待されている少女を世話することが、拾った子猫に餌を与えるのと変わらぬ行為となっている。餌は買ってきたしかわいがるが、ワクチン摂取やトイレの世話はお前(母親)がやれと放り投げている子供と同じである。
たとえ一人でも、子供を養育し日々を送ることの難しさや忍耐への想像力を全く感じられない。
盗んだ金で贅沢をさせ、「母親(女)が家で子供の面倒をみろ」と怒鳴る男を描くことに、一体何の価値があるのか?
そしてこの監督は、自分が救われるために人を助けることの利己的行為の浅ましさについて、考えたことはないのだろう。幼稚すぎる。
主人公は女性に対し「ブス」「バカ女」と罵りまくるがそれで憎まれるでもなく好意さえ持たれる。都合がよすぎる中年男性の夢想そのまま。いったい昭和何年からコールドスリープしてたんだ。
ドキュメンタリーであれば主人公に成長がなくても現実なので仕方ないが、主人公に何の反省も変容もなく内面のドラマが皆無であり、「アウトローの俺」の自己憐憫と自己陶酔を煮しめた「男向けお涙ちょうだいコンテンツ」でしかないし、物語になっていない。
終盤の歌を背景に夜道を歩くシーンには心底うんざりした。恥ずかしくないのだろうか。
そして、ラストシーンには呆れた。どこまで女に一方的なケアと許しを求めるのか。
カフェでの女同士のキャットファイトはサービスシーンなのだろうが、悪趣味すぎるし本当にどこまで古臭いのか。どうしてこういう感性でいられるのだろう。
主人公が少女の部屋へ入りこんだ後、ゴミだらけの部屋をあっという間に綺麗に片付けていたが、コメディだろう。掃除上手の空き巣のアウトロー。ギャグ漫画なら面白そうだ。
主人公に親しげにする刑事も古い二時間ドラマ臭がしてコントのようだった。小学校教諭や児相職員の描写は薄っぺらで、何も調べずに都合よく作ったのだろうとしか感じられない。
そもそも、小学生の女の子にあんなに執着する中年男性を母親が警戒しないのはおかしい。
いたるところが現実味を欠き、安っぽい。
社会派を気どるならせめてケン・ローチ作品くらい観て演出や構成を勉強して欲しい。というか、現実をちゃんと調べてくれ。
ただ、高齢の観客にはうけていたようなので、昔の人向けのお涙エンタメとしての価値があるのかもしれないが、これからの時代には意味がないばかりか害悪ではないだろうか。