「「パリ〜ルーベ」に勝つということ」栄光のマイヨジョーヌ Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
「パリ〜ルーベ」に勝つということ
断片映像のつぎ合わせによる、「オリカ・グリーンエッジ」というチームの“宣伝作品”と言って良いと思う。
2017年という少し前の映画で、今はチーム名が変わったようだが、オーストラリアではUCIライセンスを与えられた初めてのチームだという。
S.オグレディや、コメンテーターとしてR.マキュアンといった懐かしい顔が出てくる。しかし、チームが違うために、C.エヴァンスなどは完全に黙殺されている(笑)。
なお、別府史之は一瞬だけ映るが、全く出てこない。
この映画は、一シーズンを通して、チームに密着するような作品ではない。
原題は「All for One」であるにもかかわらず、“エースとアシスト”という戦術の基本や、“逃げ集団とプロトン”といった戦略的要素を語ることもない。
そういうサイクルロードレースにおけるディープな要素は一切排除して、ひたすら人情面に訴えかけてくる、“感動”モノを狙った映画だ。
バックステージの話も、監督やスポーツ・ディレクターのコメントや、ユーチューブへ投稿した、といった話が中心だ。
映画は、チームが始動してまもない2011年から始まり、2016年で終わる。
取り上げられるレースは、“良いとこ取り”というか、ハイライトとなるものがほとんどだ。だから、時間がポンポン飛ぶ。
中堅チームであるため、“グランツール”の総合優勝を狙うのではなく、ワンデイ(1日)レースや、“グランツール”のステージ優勝を狙うのが基本。
実際、この映画もそうなっている。
チーム始動後、いきなりS.ゲランスが勝利した2012年の「ミラノ〜サンレモ」。
フィニッシュラインにチームバスが突っ込むという大失策の後で、チームTT(タイムトライアル)で勝ち、4ステージにわたって“マイヨ・ジョーヌ”を保持した「ツール2013」。S.ゲランスとD.インピーの2人で分け合う。
E.チャベスが、前半にリーダージャージを取った「ヴエルタ2015」。大怪我を乗り越えた後の勝利。
そして、クライマックスは、M.ヘイマンが勝った2016年の「パリ〜ルーベ」だ。自転車人生で、たった2回しか優勝したことがなかった男のビッグタイトル。
「新型コロナウイルス」の影響で、土曜の新宿ピカデリーは、いくらか閑散としていた。
この映画は、感染の危険を犯してまで、観るべき作品では全くない(笑)。
しかし自分は、クライマックスでは、不覚にも涙がこぼれてしまった。
この映画が良かったからではない。
クラシック・レースの中でも、最も過酷な「パリ〜ルーベ」に勝つということの素晴らしさに、胸が一杯になったからである。