「苦しい波、穏やかな波」WAVES ウェイブス 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
苦しい波、穏やかな波
インディペンデント系ながら近年良質作を次々送り出し、映画賞の常連や新たな才能をも発掘している注目のスタジオ、“A24”。
本作も批評家筋から高い評価を獲得。
開幕のフロリダの青い空、赤い夕焼け、夜のハイウェイ…印象的な色彩、映像美。
作品を彩り、時には登場人物の心情とリンクする、多彩な有名アーティストによる31曲の楽曲。
『イット・カムズ・アット・ナイト』で注目を浴びたトレイ・エドワード・シュルツ監督のセンスを感じる。
しかし、話の方は…。人によっては賛否両論。ある兄妹を主人公に、痛々しいまでの物語が描かれる。
兄、タイラー。
成績優秀、高校のレスリング部のスター選手、美人の恋人も居る。
何も言う事は無い。
唯一の悩みの種は、厳格な父との関係。
タイラーは肩を悪くしており、ドクターストップも聞かず出場し…。
歯車はさらに狂い始め、恋人が妊娠し、それがきっかけで大喧嘩。
誰にも悩みや苦しみを打ち明ける事が出来ないタイラーは自暴自棄になり、起こしてしまう。“悲劇”ではなく、“事件”を…。
妹、エミリー。
一年後。“事件”以来、家族にも心を閉ざし、ひっそり暮らしていた。
そんなある日、全ての事情を知る同級生ルークと出会い、恋に落ちる…。
前半は兄視点。
衝撃的ではあるが、タイラーの言動がかなり自己チューで、あまり感情移入は出来ない。
監督のセンスはいいが、話はちと薄く、MTV的でもある。
何だかいまいち乗り切れないと思ったら、エミリーに救われた。
後半は妹視点。
ルークとの出会いに心を開きながらも、兄が犯した罪を呪うエミリー。
兄は悪魔、怪物、モンスター。
それをなだめる父。同じなのは自分も。息子を見てやれなかった。
ルークも父と確執が。死期が近い父と再会する。
それを見て、エミリーは…。
例え法や世界や世間が憎んでも。
まだ自分の心の何処かが憎んででも。
赦し。
クライマックスの穏やかな青空がそれを物語る。