劇場公開日 2020年7月10日

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「吐き出して飲み込む」WAVES ウェイブス KinAさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5吐き出して飲み込む

2020年8月21日
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鑑賞方法:映画館

青春時代の誤ちと再生の物語。と、そう言い切って受け入れて感動して終わり、とはなかなかいかない絶対的な気持ち悪さのある映画だった。

兄パートのとんでもない胸糞悪さを妹パートが見事に綺麗にカバーしてくれる。
前半のストーリーに全くノレず、いよいよ感覚が鈍ってきたかしらと悲しくなっていたけれど、後半があって良かった。

大きな亀裂が入ったとき、それを埋めるには時間と対話と外の世界が必要。
一度吐き出して、もう一度飲み込むこと。
ぐちゃぐちゃに踏みつけて、もう一度拾ってみること。
人生の常、人間関係の常なのかもしれない。
エミリーにルークがいて良かった。

崩壊した家族が少しずつ修復されていく過程が好き。どうしたって自分に重ねてしまうじゃない。
ルークと父のやり取り、エミリーと父のやり取り、夫と妻のやり取り、どれにも胸を打たれる。軽率に涙ポロポロ溢してしまう。

ただし、私はこの映画はかなり気持ち悪い作品だと思っている。

まず、被害者側への気持ちがどこまで行っても見えない。
どれだけ時間をかけてもどれだけ対話を重ねても、愛する人と再生する機会を永遠に奪われてしまった家族のことを忘れてはいけない。
アレクシスが妊娠したとき、彼女の家庭ではどんな言葉が交わされたのか。どんな気持ちで未来を決めたのか。
考えただけでゾッとする。

身勝手で自分本位で、それでいて可哀想ヅラをせんとするタイラーが終始嫌いでしかない。
そもそもなんかギラついてて怖いしうるさいパリピだしすぐ怒鳴るし、事件が起きなかったとしても一生関わりたくないタイプである。

演出のわざとらしさも鼻につく。
かっこいい音楽にかっこいい映像、弾け飛ぶような完璧なマッチング。それ自体はとても好き。
でも、本当にそれで良いの?という気になる。演出、合ってなくない?ウォウウォウ。ドヤドヤしてるだけになってない?ウォウウォウ。
車内をぐるぐる回るカメラ、高揚しきったタイミングで効果的に入るくらいじゃないとただ酔うだけなのよ。

ただの青春映画で終わらせないことが目的なら、かなりの成功作なのかもしれない。
事件が起こるまでを丁寧に観せることでありったけの重さを孕ませ、キラキラした空気を気味悪く感じさせる、そんな計算があるのかもしれない。

ドン引きレベルの罪悪感を負ったあとでも恋愛事には軽率にキュンキュンしてしまうので、なんだかんだ面白く観られたけれど。

KinA