「催眠術のような映画」WAVES ウェイブス Mahhy__*さんの映画レビュー(感想・評価)
催眠術のような映画
鮮やかな色使いと抽象的な撮り方が印象に残る作品です。
前半のタイラーの転落ぶりはあまりにも辛く、絶望的でした。
彼の父親が息子に厳しく接する理由は「黒人だから」です。彼は自分たちは他者より何倍も努力しないと欲しいものは手に入らないということを知っています。だからこそ我が子に辛い思いをさせないように厳しく接するのです。
しかし結果的にはその抑圧が裏目に出て、タイラーは薬物中毒に近い状態となり、肩に負担をかけ、誰にも相談できずに精神的に不安定になり、彼女を受け止める余裕をなくし、積もりに積もった苦しみと瞬間的な怒りで彼女を殺してしまいます。
この前半が淡々と描かれていたら、それなりに受け止められたと思いますが、この映画ならではの抽象的な表現や音楽、色使いやカメラワークのせいでまるで催眠術にかかったような状態になり、物凄い絶望感に襲われました。
後半は妹の強い、希望を想起させるストーリーになっています。
兄が犯罪者となり、孤独になった彼女の前に現れる白人の彼と共に成長し、命との向き合い方や家族の大切さ、他者と、自分自身と向き合うということはどのようなことかを教えてくれます。
しかし自分は前半の絶望感を拭うことはできませんでした。まだ自分が10代と、若いからかもしれませんが、争いようのない理不尽が世の中には存在するという事実と、人間が転落した時の恐怖を再度突きつけられただけでした。
20年後に観たら違うことを感じるかもしれません。
しかしスクリーンの使い方やテンポよく変わる音楽、酔そうになるカメラワークや鮮やかな色が客観的に、冷静に映画を観ることを許しませんでした。
あまりにもタイラーに入り込んでしまったのか、黒人というだけで生じる不正義に打ちのめされたのかは分かりません。
単純に、今の自分にはWAVESを飲み込む力はありませんでした。
映画自体には様々な社会問題や問題意識を提起する点が散りばめられており、良質なものだったと思います。キャストの方々の演技も素晴らしかったです。