「波にのまれるかのような体験」WAVES ウェイブス takfさんの映画レビュー(感想・評価)
波にのまれるかのような体験
前半、主人公が絶頂からどん底に墜ちるまでの手際が見事で、客席ごと濁流にさらわれるかのよう。
映像も素晴らしいが、特に「音」が適切にシーンを演出してくれる。
この映画では深い絶望を描いているものの、悪人は出てこない。
誰もがほんの少しのボタンのかけ違いで主人公のように誰かを傷付けてしまったり絶望的な状況に陥る可能性を秘めており、それは常に日常と隣り合わせであることを思い知らされる。
だからこそ後半に描かれるドラマは、穏やかで慎ましくあればあるほど、また何か起こりやしないかと常に緊張を強いられる。
前半は荒々しく、後半は丁寧に、あくまで静かに、さざ波のごとく絶えず心を揺さぶってくる映画であった。
たくさん流れる楽曲はあくまでも小道具のひとつとして、節度ある使われ方がされており好感が持てる。
センスと品格が感じられる秀作でした。
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