劇場公開日 2020年7月10日

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「不愉快な作品であることは間違いない」WAVES ウェイブス 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0不愉快な作品であることは間違いない

2020年7月12日
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鑑賞方法:映画館

 観ていて面白い作品ではない。寧ろ観ていて辛い作品だ。それも考えさせられる辛さではなく、悲惨な物語を垂れ流される辛さである。単に低レベルの父子が悲劇を産むだけのストーリーだから、登場人物の誰にも感情移入できないまま終わってしまう。加えて何かキリスト教的な居直りも感じる。

 アメリカの高校生の日常がどのようであるのか不明だが、本作品に描かれているような、集まって騒いだり着飾ってパーティをしたり自動車で飛ばしたりという日常はあまりにもステレオタイプ過ぎる気がする。同じようなシーンはかなり昔の映画でも描かれていた。今のアメリカの高校生はもう少しマシなのではなかろうか。
 独善的な父親に育てられて、その父親を憎みながら自分自身も独善的になっていることに気がつかない息子という関係性はあまりにも危うい。独善の連鎖だ。抑圧されている息子の心底には、いつ暴発してもおかしくないほど怒りのマグマが沸騰している。悲惨な出来事は起きるべくして起きる。

 反キリスト教みたいな発言もないではないが、全編を通じてゴスペルみたいな歌が連続し、結局は自分と自分の家族が大事というアメリカに蔓延する家族第一主義に落ち着き、キリスト教的な価値観で収束してしまう。
 シーンによっては、偽善者の怒りを見せられることに耐え難い苦痛を覚える。マルコムXがアメリカ的なキリスト教を一刀両断にしてから五十年以上経つにもかかわらず、本作品はアメリカの黒人が未だにキリスト教的なパラダイムに縛られていることを表現する。
 本作品のパラダイム自体を反面教師として表現している可能性もあり、キリスト教的なのか、反キリスト教的なのか、解釈は観客に委ねられる。どちらに解釈するにしろ、不愉快な作品であることは間違いないと思う。

耶馬英彦