「突然の傑作との出会いに震えた」コントラ KONTORA エロくそチキンさんの映画レビュー(感想・評価)
突然の傑作との出会いに震えた
破格の傑作だった。
1986年にインドで生まれ2011年から日本での活動を開始したというアンシュル・チョウハン監督。彼の存在をまったく知らなかった。
田舎町で暮らす女子高生のソラは、急死した祖父が1945年に記した日記を手にした。
時を同じくして登場した後ろ向きに歩く男。その登場シーンが鮮烈だった。美しかった。泣いているかと思われた表情が、やがて今生まれ落ちたかのような歓喜の表情へと変わった。彼は前を向いて歩かず、言葉を発することはなかった。非現実的で抽象的な彼の存在が今作を特別なものにした。
いったい彼は何者?
祖父の日記は端正なイラストとともに極めて具体的かつ直接的だった。それを読み返すソラも、観る我々も否応なく軍隊の生活を知ることとなる。祖父の1945年を知ることとなる。
自分は少年兵として志願し各務原の飛行場で終戦を迎えた父のことを思った。父は一度も戦闘機に乗ることはなかった。
ソラの生活は閉塞していた。二人だけになった父との生活は冷たかった。父と叔父との関係も悪く、夢破れ東京から帰った従姉妹も父である叔父を嫌悪した。家族も親族もみな歪だった。下世話な描写とともに悲劇しかなかった。
ソラと後ろ向きに歩く男の交錯。男が与えたインパクトは決してプラスではなかったが決定的だったと思う。
ソラの存在、そして時折噴出する彼女の狂気が鮮烈だった。ソラを演じた円井わんさんってホント凄い。
映像と音/音楽も特筆すべきもの。映画のマジックを感じた。男の登場シーンとともに、ソラが自転車で男を探すシーンが秀逸。恍惚となった。真の映画芸術が在った。
過去と現在、そして具象の抽象のつづれおり。そしてそこに生まれる普遍性。黙示録ともいえる今作にタルコフスキーを思った。
今年の日本映画のベストの一本だろう。