「両隣の観客も、斜め前の観客も、始終、ヒクヒクと泣いていたので、こんな映画で泣けるなんて不思議だなぁ……と思っていたのですが、よく考えてみるとこういう仕組みだったからかも知れません。」ジョゼと虎と魚たち(2020・アニメ版) お水汲み当番さんの映画レビュー(感想・評価)
両隣の観客も、斜め前の観客も、始終、ヒクヒクと泣いていたので、こんな映画で泣けるなんて不思議だなぁ……と思っていたのですが、よく考えてみるとこういう仕組みだったからかも知れません。
私は男ですから、当然、男の視線で映画を観るわけです。
しかし、泣いていたみなさんは全員、女性でした。
それも一人で観に来ていた女性です。
これが、手品のタネを暗示しているのかなと思ったのでした。
この映画、主要な登場人物は二人。
一人は好青年。念願の大学院留学のために、一所懸命勉強し、留学資金を貯めるために精一杯、アルバイトを掛け持ちしながら頑張っている、優しく賢くハンサムな、理想的な好青年です。
しかも現在、彼女ナシ。
その彼が、たまたま車椅子の女の子の事故を防いだことで彼女と知り合いになったわけですが、この女の子、まあ驚くべきヒン曲がった性格の持ち主で、顔がいいっていう点だけの女です。
彼が彼女を好きになるべき理由が見当たりません。
私だって、こんな女は勘弁願いたいと思いました。
しかし女性の側から見れは、こんなステキな男性が偶然自分の目の前に現れて、自分のために、それはそれは尽くしてくれ、どれほどイジワルしようとスネようと、ただひたすらに励まし続けてくれ、奉仕し続けてくれるのですから、内心、恋恋恋恋恋になっちゃうのも分からなくはないけれど、いやいや、それは彼氏さんはお仕事としての奉仕なんですが、という点が、彼女に自分を投影してヒクヒク泣いていた観客のみなさんには見えなくなっていたのでしょう。
一言で言えば、不幸な女の子の前にステキな王子様が現れて、不幸な彼女と結ばれて、幸せを掴みましたというお話です。
なんとも、手垢の付いた構図ですなぁ。
ってわけで、もしもあなたが女性で、映画で現実を忘れて涙を流し、幸せな気持ちで家路に着きたいと思っているなら、それはもう、お勧めできる映画だと思いますよ。
男にとっては……。それは言わぬが花というものでしょう。