「食費がワンランク上がりそうで心配」フード・ラック!食運 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
食費がワンランク上がりそうで心配
失礼ではあるが、お笑い芸人の寺門ジモンの監督作品ということで観るかどうか保留していた。しかし先入観を捨てて鑑賞したら、これが意外に面白い。
ストーリーはベタというか、行き当りばったりの展開だし、主人公の小学生時代のシーンはいまどきそういうアホな小学生はいないとツッコミが入りそうだが、それはそれとして、りょうが演じる主人公の母安江さんが見せる器量の大きさと優しさが凄い。この人の人格が物語全体を包み込んでいるから、放っておいてもまとまりのある作品になっている。
安江さんのエピソードを語る登場人物を演じるのは、大和田獏、寺脇康文、竜雷太、東ちづる、白竜と、錚々たるメンバーで、主人公の相手役を演じた土屋太鳳やワンポイントの大泉洋も含めて、達者な役者ばかりである。残念だが主人公を演じたNAOTOとの演技力の差がありすぎて、主人公が逆に悪目立ちになってしまったのが憾まれる。子供時代の子役の演技もいまいちだった。
しかし料理のシーン、といっても殆ど焼肉のシーンだが、これがよかった。主人公が食材と料理人に対する考え方を披露する場面は、流石に食通のジモンが監督だけあって、とても説得力がある。松尾諭の演じた嘘くさいフードライターとは知識においても哲学においても一線を画していて、アンジャッシュの渡部建が紹介する料理があまり美味しそうな感じがしなかった訳がわかった気がした。
主人公以外はちゃんと見ごたえがあるので、映画館で鑑賞して損はないと思う。当方は以前から、美味しい焼肉屋と美味しくない焼肉屋があることには気づいていたが、肉を焼くだけなのにどうして美味しくない焼肉があるのかがわからなかった。本作品はその理由をわかりやすく解説してくれたので、とてもためになった。ステーキも焼肉も肉を焼くだけの料理だが、結構奥が深いのだ。これからは焼肉が食べたいではなく、美味しい焼肉が食べたいと思うのだろう。意識がワンランク上がったのは喜ばしいことだが、食費もワンランク上がりそうで心配である。