劇場公開日 2020年2月21日

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「単純にスカッとするには複雑すぎる」スキャンダル andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5単純にスカッとするには複雑すぎる

2020年3月4日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

「スキャンダル」ってSEOに著しく弱そうなタイトルはどうにかならなかったのかと思うが、"Bombshell" に嵌る絶妙な邦題はなかなか思いつかないものである...。
ストーリーは「あの」FOXニュースで起きた(起き続けていた)セクハラ事件を基にしている。2016年。割と近い。
FOXニュースのアンカーであるメーガン・ケリー、番組を降ろされて黄昏の道にいるグレッチェン・カールソン、そして栄光への道を夢見るケイラ(彼女は恐らく架空?の人物だと思われる)。
特殊メイクでガチにメーガン・ケリーに寄せてきたシャーリーズ・セロンは、FOXニュースにありながらトランプ攻撃の急先鋒である(そしてそこには「所有者」ルパート・マードックの意向がある)。トランプさんはさすがに誰かに演じさせるわけにもいかず、全部リアル・トランプなのはちょっと面白い。しかしトランプさんも発言とツイート最悪だな...。まあ今もあんま変わらんけど...。
メーガン・ケリーはトランプさんとその熱狂的支持者たちの攻撃から守ってくれないロジャー・エイルズら上層部にモヤモヤしている、そういうタイミングで "Bombshell" が投げ込まれる。
投げ込んだのはニコール・キッドマン演じるグレッチェン・カールソン。闘う女、そして極めて冷静で切れる。
ロジャー・エイルズという男は「まだこんなおじさん居たの...」と思ってしまう程の典型的ナチュラル差別おっさんである。セクハラは勿論なのだが、言動が全て「私は女性たちを活躍させてやった」という言い方なのである。とにかく恩着せがましいというか、引き上げてやらにゃあ女なんてなにもできないだろ、という根底の思想を隠そうともしないところに乾いた笑いしか出ない...。しかもそれ、多分本人に悪気とかない。怖。
そしてその風土に、結局は女性も染まっているのだ。メーガン・ケリーもモヤモヤしてはいるが、結局FOXニュースで働いている。それは本当に「生活の糧」の為だけなのか?自分を通しているようでどこかの「意思」が入っているのだ。
女性が女性であるだけで抑圧される時代というのを、私自身はあまり感じて生きてこなかった。でもそれは厳然と存在していたのだ。当たり前に。そしてそれを当然と思う「女性」もいるのだ。難しい。
そしてマーゴット・ロビー。彼女は野心家だが、「何も知らない」役回りを演じている。FOXニュースを見すぎてロゴが焼きついちゃった(あのあたりの演出がコメディっぽい)家庭で育った「素直な保守派」。色々知ってしまっているニコール・キッドマンが止めるのも聞かず、彼女は最悪の形でこの世の醜悪さを知る。あんまり素直過ぎて悲しくなる。そしてそういう「素直な」女性は多いのだろうと思う。だからこそロジャー・エイルズの罪は重い。
「知っていたのに何もしなかったこと」をケイラがメーガンに責めるシーンは、どちらも理解できる部分があって悲しかった。沈黙の罪、でも人間、そんなに強くない。FOXニュースのアンカーであっても。
ただ、メーガン・ケリーの言動にもちょいちょい気になるところはあり、そこは敢えて残したんだろうな...という気はする。「彼女たちがなぜFOXニュースを選んだのか」はメーガンとグレッチェンに関しては描かれないからだ。そこはちょっと考えてしまった。
結局いちばん共感性が高いのは、素直すぎるマーゴット・ロビーと彼女の友人で「クローゼット民主党員」であるケイト・マッキノンである。
個人的にはルパート・マードックのヤバさにいちばん戦慄した。彼の思考ひとつでニュース動いちゃうの怖いというか、それがメディア王なのか...

andhyphen