劇場公開日 2020年2月21日

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「人間は本質的にいじめ体質」スキャンダル 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5人間は本質的にいじめ体質

2020年2月24日
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鑑賞方法:映画館

 御年52歳のニコル・キッドマンだが、本作品でも相変わらずのコケティッシュな魅力を振りまいている。同じことはシャーリーズ・セロンにも言えるが、今回は顔がいつもと違うのが気になった。鑑賞後に特殊メイクだと知ったが、必要性が理解できなかった。
「鯛は頭から腐る」とは、先ごろの日本の予算委員会での辻元清美の発言だが、シャーリーズ・セロン演じる人気キャスターのメイガン・ケリーが「魚は頭から腐る」と、同じ意味の発言をする。日本の政権が総理大臣から腐敗しているのと同じように、アメリカでは政治権力も企業もトップから劣化しているという訳だ。
 それにしても、マーゴット・ロビーを加えた三人のキャスターがあまりにもナイーブ過ぎるのが気になる。悪役に凄みがないこともあって、物語が随分と軽くなってしまった。日本の高校生のいじめのほうがずっと酷いだろう。警察の発表だけで毎年200人以上が自殺している。警察では遺書があるなどの明確な証拠で自殺に分類しているので、不自然死すべてを自殺とすると、凡そ1,000人の高校生が毎年自殺していることになる。日本の不幸な高校生よりも三人のニュースキャスターのほうが恵まれているように見えるのは当方だけではないだろう。

 アメリカの大統領選挙が近いので、本作品はアンチトランプのプロパガンダという意図もあるのかもしれない。しかし高収入のニュースキャスターに対するハラスメントは、生活苦に喘ぐ庶民にどれだけ響くのだろうか。コールセンターや企業のカスタマーセンターで、客を名乗る人物から毎日のように電話で罵声を浴びせられ続けている人々の安月給のほうがよほど問題だという気がする。
 ただ、トランプ〜FOX〜ロジャーという図式が安倍晋三〜読売〜ナベツネと同じであることを思うと、ナベツネがセクハラで追い出される想定はかなり痛快ではある。しかしナベツネが追放されただけでは何も変わらない。それはアメリカも同じだ。だから本作品は反トランプを明確に打ち出したのだろう。
 衣食足りて礼節を知るというが、それはケチな犯罪をしなくなるだけで、金持ちが礼節を弁えているとはとても思えない。同級生や後輩をいじめるのは大抵が金持ちの子供だ。不遇な庶民は更に立場の弱いカスタマーセンターの労働者に毒づく。
 セクハラもパワハラも、要はいじめだ。陰湿で愚劣な行為である。いじめがなくならないのは、人間が本質的にいじめ体質だからなのだろう。本作品はその上辺をなぞってみせたが、社会の底辺で社会全体からのいじめに遭っている人々を救う意図は示さない。それは大統領選のあとで新大統領が示してくれるという淡い希望を暗示するためかもしれない。

耶馬英彦