「立役者」ヒノマルソウル 舞台裏の英雄たち U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
立役者
後半、涙が止まらなかった。
観れて良かった。
実話だそうな。
こんな物語は滅多にないとは思うのだが、スポットライトが当たらない者達の英雄譚だ。
彼等が居なければ、その舞台さえなくなっていた。
JUMPを成功させ、何より喜んだのは日の丸飛行隊であったような表現もいい。表舞台に立つ人間達は必ず誰かや何かに支えられてる。その才能の発露は1人ではなし得ないのだ。
原田のJUMP…K点を遥かに超えたJUMPのその裏側には、仲間との絆や託された想い、報いたい気持ちがいっぱい詰まっていて、胸が熱くなる。
どの業界も裏方は不遇だ。
宿舎から会場まで徒歩移動とか、腹が立って仕方がない。代表選手と同じような待遇とまでは言わないが、あまりに差がありすぎる。
嘆かわしい。
テストジャンパー達が次々とJUMPを成功させても、観客の反応は冷ややかなものだ。その内情を知らされてはいないのだから当然かとも思うが、彼等と観客との温度差が天と地程もあり、夢を追う事の孤独さをも読み取ってしまう。それは仕方がない。
仕方がない事ではあるが、その業界までも彼等の価値を蔑ろにしてはいかんだろう…。
情熱を食い物にする体制には断固として反抗したい。
メダリスト達の私生活とか…銀メダルを取って尚、生まれてくる子供との生活を不安視される境遇ってどうなってんだ?
国家の威信をかけてとかアナウンサーは好き勝手に煽っちゃいるが、その報酬はどこにあるのだろうか?
…理不尽で納得いかんわ。
それもこれも、実話に向き合ったからこその感想かと思う。前半は主人公の苦悩をとにかく描く。
脚本の構成が凄く良かった。
田中氏は好演だったし、彼の好演はやはり他の役者陣の功績なのだとも思う。
土屋さんは、驚く程の安定感だし、濱津氏は飄々とした原田さんを熱演だった。山田氏も小坂さんも郷敦も好感触だ。
小坂さん演じる女性も、16年後にJUMP女子が正式種目になった事に一役かってたらいいなと思う。
主人公の挫折と再生を主軸に描いてはいるが、豊かな人間ドラマに溢れてた。
ヒノマルソウルって題名は大好きで、世界を相手にする時の高揚感も分からなくはない。
彼等は困難を乗り越えて金メダルに貢献するのだろう。ただ、その困難の半分は人為的なものだ。しかも相対する敵国からではなく、自国であり管理者達からのものだ。この体制は全世界共通のものなのだろうか?
古来より続く、まるでDNAに刻印でもされてるかのような滅私奉公や主従関係の弊害なのだろうか?
まるで一欠片の罪悪感もなく「25人全員飛ぶのが条件だ」と組織委員の人は言う。
「自国開催での金メダルは協会の悲願だ」と同調圧力をかけてくる。
コーチの反対により、一度は棄却されるこの提案は選手からの提言で実現する事になる。
主人公の逡巡は、とてもとても理解できる。
「正気かお前ら?命をかける価値などあるのか?」と。
若さの特権なのか、無謀な挑戦に酔いしれるタイミングなのか…彼はこの時点では引退を視野にいれている。
そして最後のテストジャンプ。
彼の情熱は沸点を越える。
自分の為ではなか、友の為に。
素敵な物語ではあるけれど、様々な雑音もちゃんと把握できる優れた作品であった。
コロナによりゴタゴタしてるオリンピックではあるが、国の体面なんかは介入できる余地などなく、アスリート達はその短命な選手生命を国などという大雑把なものにかけているのではないのだろう。
そんな事を感じれて良かった。
オリンピックは応援出来ないけれど、選手達にはエールを送りたい。