「期待していただけに残念」ぐらんぶる das Stoutさんの映画レビュー(感想・評価)
期待していただけに残念
原作が大好きで,「ダイビング」という題材は実写で魅力が増すと思っていたので,とても期待していた.しかし,総評としては,期待は裏切られてしまったと思っている.ぐらんぶるを人に勧めるなら,間違ってもこの映画は勧めない.
要約
・ キャスティングと野球拳シーンのダンスは良かった.
・ 冒頭のあれは単なるイジメ.時田・寿も一緒に講堂前で目覚めることに意味がある.
・ 終盤の終盤に明らかになる「島外に逃げたかっただけ」という動機が無理すぎる.
・ 原作の良いシーンの詰め込みになってしまっていて,何がしたいのかがわからない.
全体的に厳しめの感想になってしまうので,初めによかったところはきちんと述べておきたい.
念のため書いておくが,「原作通りであるべき」なんて少しも思っていない.
むしろ,2時間で閉じた物語を作るためなら,うまく原作の要素を拾いながら,オリジナルストーリーを書くぐらいでもよかったと思っている.
◆よかったところ
・ 離島キャンパスという設定
ぐらんぶるは物語の開始から本格的なダイビングに取り組むまでに,かなり時間がかかる(例えば沖縄編完結までに単行本5巻).それにもかかわらず,序盤から印象的で面白いシーンが多いので,2時間にまとめるのは非常に難しかっただろうと思う. 離島キャンパスという設定は,うまく「ダイビングのメッカ,とでも印象付けられれば沖縄編までのストーリーをグッと短縮できるいい設定だと思った.
・ キャスティング
キャスティングは総じて良かったと思う.特に伊織・耕平の2人ははまり役.
千紗が素直すぎるのが少し気になったが,まぁ許容範囲内だと思う.
愛菜は原作とはだいぶ印象が違ったため,原作の愛菜ファンには不満だったかもしれない.
しかし,ケバ子メイクをギャルメイクに変える前提なら適役だと思う.ギャルメイクは,暴走したおのぼりさんのイタさをよく表現できていた.原作通り,厚化粧+金髪ツインテウィッグでは,あまりにも学芸会感が出てしまってよくないはず.なんなら愛菜の合コンシーンもギャルメイク4人で見たいくらい.
・ 野球拳シーンのダンス
この改変には思わず手を打った.原作は画のインパクトでPaBの雰囲気を伝えているが,同じことを実写でやっても盛り上がりに欠けるはず. 歌とダンスは実写映画ならではの表現で,PaBという団体の面白おかしさと盛り上がりをよく表現できていたと思う.
◆よくなかったところ
細かいことをつつけばいくらでも書けそうなので,最も致命的だと思った2点だけ詳しく書きたい.
・ 冒頭シーン
くどさも気になったが,何より,新入生を裸で講堂前に放置するのはただのイジメだろう.あれを本気で面白いと思って作っているなら,表現者としての倫理について,一度よく考えてほしい.
原作では講堂で全裸で目覚めるシーンは一度だけで,時田・寿も一緒だった.あくまで絶対に遅刻しない方法として,先輩と一緒にキャンパスで飲んでいたのである(狂ってはいるが). 後々「うちの先輩はひと味違うだろ?」なんていうセリフを引き出すなら,人格を疑われるようなシーンを入れるのはNGでしょう.
・ 島外に逃げたかっただけ
最終版のダイビングシーンで,伊織と耕平の二人が,実はダイビングで島外に逃げたかっただけであることが明らかにされる.最後の最後にはダイビングの魅力に目覚めた,と解釈できないこともないものの,到底受け入れられない筋書きだった.初めて海に潜った伊織が,千紗の手を握って「初めての世界」を知った喜びを伝えたのは,すべて嘘だったのか? ライセンスを取るまでに,本当にダイビングの魅力に気が付かなかったのか? 監修や原作者はよく受け入れたな,とすら思う.
他の気になる点は箇条書きでまとめておく.
・ いいシーンを詰め込みすぎで人物や物語が深まっておらず,脈絡がない.何がしたいのかがわからない.
・ 俳優さんがただ叫ぶだけで驚きや盛り上がりを表現するの,いい加減やめてほしい.
・ 『君の名は。』だけならともかかく『ここさけ』ネタは完全にオタ意識だろうが,いれときゃ喜ぶんだろ?みたいな浅い考えが透けて見える.