「エメリッヒの戦争群像劇は吉と出るか?」ミッドウェイ ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
エメリッヒの戦争群像劇は吉と出るか?
SF大作の印象の強いエメリッヒ監督だが、歴史物や社会派物の方が彼の手腕が冴えると思っている。この『ミッドウェイ』もその期待を裏切らず、真珠湾攻撃からミッドウェイ海戦に至るまでの経緯も含め、太平洋戦争の激戦をドキュメンタリー映画のように描いている。
最も意外だったのは人物描写の構図だ。エメリッヒ作品と言えば物語の中心人物が明確で、絶対的な主人公がいたのだが、本作では群像劇スタイルで司令塔、パイロット、待機する兵員、そして日本艦隊などの様々な視点で物語を動かしていく。故に特段誰かに感情移入することなく、観客は日米の一進一退の攻防を固唾を飲んで見守ることとなる。
「戦争に勝者はいない」と監督が述べていたことからすれば、観客をあえて傍観者にすることで、ミッドウェイ海戦を中立な視点で見てもらいたかったのだろう。だが、私にはこれが裏目に出たように思えた。登場人物が多すぎるのだ。結果的に戦っている現在位置と各々の人物の現在位置の把握がしづらく、誰が、どこで、どの空母を標的に攻撃しているのかがわかりにくくなってしまった。日米双方の視点で物語を描いた点は好感が持てるが、アメリカ側の主要人物が8名近くであるのに対し、日本側は3名とバランスが悪く思えてしまうのだ。
しかし、太平洋戦争の戦況を変えたと言われるこの激戦の現場にいれば、正にスクリーンに映ったような状況だったのだろう。上空には無数の戦闘機、響き渡る爆撃音や銃声。どの敵機が自分たちの艦に向かって攻撃しているのかも分からない混乱した状況こそが監督の描きたかったものなのかもしれない。戦闘中に甲板から上空を見上げると、落ち葉が舞い散るかのように数多の戦闘機が黒煙を上げて墜落していくシーンは、美しくも虚しさと恐ろしさを感じずにはいられない。
終戦から75年となる現在、太平洋戦争について知る機会はめっきり減ってきてしまっている。ややアメリカ視点の強さは否めないが、太平洋戦争がいかにして始まったか、真珠湾攻撃がいかに許されざる行為だったのかを知る上でも本作を観る価値は十分にある。