子供はわかってあげないのレビュー・感想・評価
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胸の高鳴りと混沌としたひと夏の感情、会話劇と思えぬキャラ立った愛くるしさが堪らない
「レモネード」と例えよう。大きな波を見せるわけではないのに、会話劇にグッと引き付けられて、気がつけば心は踊っている。ひと夏によって輝き出す、プールのような乱反射は、眩しく屈折し、尊いモノへと輝かせる。
上白石萌歌演じる美波は、屋上で自身が好きなアニメを描く少年を見つける。それが、もじくん。ゆるくてどこか初々しい二人の会話は、聞いていて心地よい。とは言え、美波の家庭は再婚しており、もじくんの長男は家を追い出されたりと、境遇が良いとは言い切れない。そんなとこから始まるのが、生まれの父に会うこと。ようやく見つけた父は、新興宗教の教祖と聞いていたが、全く異なる姿をしており…。ひと夏に輝き出すのは、失っていた時間と距離。父と過ごし、少しずつ何かが変わっていく。この短くも濃い一瞬に、美波をはじめとした関わる人が成長していくような暖かさを感じる。おそらく、これは「空白」に対して「埋める」物語ではなく、「埋まっていたことに気づく」物語なのだ。だからこそ、美波は父に水泳を教え、父はもじくんに覚悟を教えるのである。「わかってあげない」のは、わかっているからこそ、分かる必要がないのである。だからこそ、親が教えることは、最後の仕上げであり、唐突に湧いた感情に整理ができないままの、ありありとした感情に眩しさを覚えるのだ。
沖田監督作品は、ドラマを除けばこれが初めて。没入するように撮られたシーンの数々に、爽やかな夏の匂いを感じずにはいられない。甘酸っぱくて、爽やかなラストに、しびれるばかり。さあ、この胸の高鳴りを、何と呼ぼうか。
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