劇場公開日 2021年8月20日

  • 予告編を見る

「平和で楽しい青春コメディ」子供はわかってあげない 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0平和で楽しい青春コメディ

2021年8月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 タイトルからすると大人と子供が揉めるのかと予想していたが、はじまって早々に、どうやら穏やかに進んでいく作品だと見当がついた。奇想天外な展開や奇抜な登場人物は皆無で、ありふれた市井の人々のエピソードが続くという想定だ。
 映画はほぼ当方の想定通りにストーリーが進むのだが、途中で登場人物がただのありふれた人々ではないことに気がついた。ありふれた人々にしては、人柄がよすぎるのだ。
 人間は自分を基準にしか判断できないとはよく言われることで、本作品の登場人物たちは寛容で悪意の欠片もないから、他人の悪意が想像も出来ないのだろう。他人の悪意を想像しなければ、怒ることもないし、揉めることもない。どのエピソードのどのシーンにも悪意がひとつも登場しないのだ。なんとも平和で楽しい、天国みたいな映画である。

 ビゼーのカルメン序曲は聞いているだけでなんだか忙しい気分になる超有名曲だが、この曲をテンポを変えてBGMにしている場面がある。これがとても効果的で、楽しいような浮かれたような気分になる。音楽に加えて、ところどころにギャグみたいなシーンを突っ込んで笑いを取る。タイトルとは裏腹の青春コメディである。初恋の要素もある。

 主演の上白石萌歌は好演。歌も上手いしスタイルもいいし、どうやら運動神経もよさそうだ。青春=走るということで、走るシーンを効果的に使って若いエネルギーが弾ける様子を映し出す。
 相手役の細田佳央太は19歳とは思えないほど演技が達者で、映画「町田くんの世界」~テレビドラマ「ドラゴン桜」~本作品と、まったく異なったキャラクターを演じている。若い演技派としてこれからも活躍しそうだ。
 そしてなんと言ってもトヨエツである。この人の存在感が作品全体を引き締める。大したものである。育ての父親を演じた古舘寛治さんはツイッターで「投票向上委員会」への入会を呼びかけている。政治的な発言をする俳優が増えるのはいいことだ。

耶馬英彦