リチャード・ジュエルのレビュー・感想・評価
全298件中、101~120件目を表示
メディアによる扇動の元凶は、決めつけ捜査だった
クリント・イーストウッド監督はインタビューで「実際にあったことを再現するのが好きだ」と語っていた。
そのとおり、実話ものを連発している最近のイーストウッド監督だが、本作もいつものように淡々と出来事を見せていく抑えた演出だ。それがリアリティに繋がっているように思う。
そんな演出の中でも、ドラマチックな場面が二つ。
ひとつは、母親の記者会見シーン。
これは、弁護士ワトソン役サム・ロックウェルと母親ボビ役キャシー・ベイツの演技によるところが大きい。飾らない演出に合わせるように、感情を抑えて訴えかける語りの名演。
そしてもうひとつ、主人公リチャード(ポール・ウェルター・ハウザー)がFBIの聴取で「証拠があるのか」と確信を問うシーンだ。
警察官への強すぎる憧れから、理不尽なFBIの要求に盲目的に従っていたリチャードの突然の問いに、捜査官(ジョン・ハム)は絶句し焦燥するばかりとなる。
この場面は映画のクライマックスであり、イーストウッドの地味な演出が光る。
多くの観客はリチャードを応援はしても、好きにはなれなかったと思う。
彼は、自分のことよりも母親を気遣う優しい男なのだが、少し偏執的で状況認識力に片寄りがある、いわゆる変人だ。
そんな偏見の目で彼を見ている点において、映画の中の大衆と変わらない。
だから、弁護士や周囲に助けられて無実を勝ち取るのだろうと思っていた観客は、リチャードの毅然とした態度に意表を突かれる。
本作は、メディアの過ちが個人を追い詰めてしまう、大衆を扇動してしまう恐ろしさを訴える。
が、自分にはそれ以上に、人を偏見で区別してしまうことを責められたようで、心が痛んだ。
女性記者(オリビア・ワイルド)が、リチャードが真犯人ではないことに気づく場面と、母親の記者会見で涙する場面が描かれているが、彼女が後悔したり償おうとする場面は描かれていない。
彼女がどのように自分の過ちを理解し、償いの行動をとるかを描けば、観る側はある種のカタルシスを得られたかもしれない。
だが、そんなドラマ作りはしないのがイーストウッド。
あくまでも主軸はリチャードと彼の仲間たちなのだ。
弁護士と助手(事務員)が、犯行予告電話をリチャードがかけられなかったことを立証するため、現場から公衆電話まで歩いて時間を計る場面で、オリンピック短距離走の映像を挿入したのも見事な演出だった。
日本でも、松本サリン事件で謂れもなくマスコミから糾弾された被害者の事例がある。
強引な捜査による冤罪の事例も数多ある。
本作で、容疑が晴れた通知を持参した捜査官が、それでも犯人だと断言する。その後に真犯人が捕まるのだが。
東京電力OL殺人事件の犯人とされていた外国人が冤罪と認められて釈放されたとき、捜査担当刑事が犯人に間違いないと発言していた。その理由は「嘘をついた」からだと。犯人でなければ嘘をつく必要がないと言うのだ。
そんな一点で確信して、尋問し状況証拠を積み上げ送検するのだから恐ろしい。
刑事には刑事の経験的勘があったのかもしれないが。
…そんな事も思い出させる映画だった。
容疑者に「プロ」はいない
事実がベースとなっているため、誰が犯人であるのかということはすでに明らかだ。
知っていてもなお見ていられるサスペンス要素とは何なのか。
つまり、物語は逮捕したいFBIと記事を売りたいメディアと容疑者サイドの三つ巴で、
唯一「プロフェッショナル」でないのは容疑者だけだということだ。
そもそも容疑者に「プロフェッショナル」なんて存在しない。
そして捜査に司法はなかなかに専門職、「プロの世界」だ。
なら同じ舞台に立った時、一番不利なのは誰なのか。
幸いにも容疑者サイドには有能な弁護士が「プロフェッショナル」としてついてくれていた。紙一重の戦いだったのだろうと感じざるを得ない。
そして同時に自分も、この映画を見る人の半数以上が素人にちがいなく、
他人事にはできないと立場をすり替えてみてしまう。
なら考えずにおれないのは、ツギハワガミ? の恐ろしさだろう。
着眼点の良さはやはりイーストウッドレーベル、と思える1本だった。
ほかにもキャシーベイツの演技が絶妙。面倒見のいい弁護士さんでよかった。リチャードのFBIを前にふるう最後の熱弁もかっこよかったな。
マカレナなつかしい。
鉄人イーストウッドはどこまでいくのだろう。
そしてまたしてもサム・ロックウェルさん。ガラリと感じが違って孤軍奮闘する切れ者弁護士役でおいしい。キャシー・ベイツ演ずる母ちゃん、タッパー取られちゃってかわいそう。ポール・ウォルター・ハウザーのほっぺたとお腹をぷにぷにしたい。
ただ脚色するところはいろいろ間違っているような気はする。このクライマックスはクライマックスとして相応しかったのか? リチャードがひとつ成長した場面であるのは分かるのだが。むしろキャシー母ちゃんの演説がぐっとくる。すっぱ抜いた女性記者の描かれかたが事実と違うと、モデルになった新聞社と揉めているそうだが…。というかFBIはこれでいいのか?
イーストウッドはもっとやればできる子だと思う(何様)。
感動したよ。
こんな映画が見たかった
淡々と
メッセージ性が強い
老舗の味わい
やってない、としか言えないもどかしさ
素っ頓狂な純朴さが清々しい地味ながらずっしり重いドラマ
1996年のアトランタ五輪、イベント開催中の公園で警備員のリチャードは不審なバッグを発見する。すぐに通報し周囲の観客を避難させたところでバッグは爆発、死者2名を出したもののそこにいた多くの観客の命を救ったとして一躍時の人となるリチャード。出版社から自伝を出さないかと請われたリチャードはかつて一緒に仕事をしたことのある弁護士ワトソンに連絡を取り代理人になってもらうことにする。しかしそんな喧騒の裏でFBIはリチャードを容疑者として捜査を開始、その事実を新聞社がスクープしたことからリチャードは一転疑惑の人に、ワトソンとリチャードは無実を証明するべく戦うことになる。
ここ数年実話の映画化ばかりを手掛けている巨匠クリント・イーストウッド監督による本作、奇を衒ったところが一切ない地味なドラマ。細かいところに気がつく繊細さを持ちながら並外れた正義感ゆえに暴走し周囲から疎まれるリチャードと彼の優しさを信じて弁護を引き受ける熱血感ワトソンが立ち向かう敵は決定的な物証がないのをいいことにあらゆる手で状況証拠を積み上げようとするFBI。強引にも程がある捜査にもかかわらず自身の無実を証明しようとFBIに全面協力しようとするリチャードの素っ頓狂な純朴さが物語全体に清々しい明るさを与えています。ワトソンもまた自身の正義感ゆえに不遇な立場に追い込まれていることが暗に匂わされていて、リチャードを守ることに静かな執念を燃やす様に胸が熱くなります。一見粗暴だが惜しみない慈愛を滲ませるワトソンを演じるサム・ロックウェルの名演が光ります。またリチャードを心から信じているがゆえに周囲の不寛容に胸を痛めて傷つく母ボビを演じるキャシー・ベイツの繊細な演技も実に見事。個人的にはワトソンを支えるロシア訛りの助手ナディアを演じるニナ・アリアンダがさりげなく滲ませる母性にグッときました。
前作『運び屋』では自身の贖罪を滲ませていましたが、本作ではよりキリスト教的な寓話として本作を捉えているのではないかと思いました。すなわち「善きサマリア人のたとえ」でしょうか。作品を重ねながら毎度手を替え品を替え新しい作風を持ち込み、静かに世に問う巨匠が恐らくは物凄い早撮りで仕上げたであろう本作、人としてどう生きるべきかを問うずっしり重い傑作でした。
イーストウッド監督の作品は大好きだ!
第一発見者は容疑者か?冤罪か?
1996年のアトランタ爆破テロ事件の実話をもとに描いたサスペンスドラマ。1996年、五輪開催中のアトランタが舞台。監督はクリントン・イーストウッド。
警備員のリチャード・ジュエルが、公園で不審なバッグを発見する。その中身は、無数の釘が仕込まれたパイプ爆弾だった。
警備員の仕事を一生懸命に行い、不審物発見で爆弾テロを未然に防ぎ、一躍英雄視されたのもつかの間、FBIによる、第一発見者が怪しいという無根拠かつ強引な捜査と、メディアによる犯人であるかのような報道。前日まで英雄だと持て囃していたテレビコメンテーターが、今日はあっさり「怪しいと思っていた」と手のひらを返した。そしてアメリカ全国民がメディアに踊らされ虚偽の報道を鵜呑みにしてしまう。
これは、まさに現代社会の負の連鎖。
マスメディアとSNSによって、出来事が虚偽でも事実でも関係なく、驚異的な速度で拡散されてしまう。この意味を上手く取り入れ巧みな技でメッセージ性も高い。90歳のイーストウッド監督の恐るべき時代感覚には脱帽だ。
「第一発見者が疑われるなら、警備員の誰もが不審物を見つけても通報せずに、自分だけの身を守り逃去るのが得策、ということになってしまう」というジュエルの言葉が胸に突き刺さった。
すごく怖さを感じる映画でした
リチャードにかけられた誤解、FBIの真実を曲げた強引な捜査、そしてメディアに流され負の感情に飲み込まれていく世論。
どれも自分自身に起こりえることで、気がついたらリチャードの立場になっているかもしれないし、情報に流され無意識に誰かを追い詰める側になっているかもしれない。
他人事とは思えず怖くなります。
それがフィクションでなく実話だから。
【感想ブログ】 https://toomilog.com/richard-jewelljp
怒れよジュエル
恐怖
クリントイーストウッドだったか!
アトランタ五輪の時に起きた事件を映画した、と。
いわゆる冤罪的な物語、と。メディアがこぞって
容疑者を追い詰める話は、現代ではSNSがそれに
変わりつつあって、社会問題だなぁと感じでいた
ので、ちょっと観に行きました。
人物描写が丁寧で、リチャードの人となりも
よく分かる展開で最後まで集中して観られました。
最後のエンドロールにクリントイーストウッドの
名前を見つけ、あ〜なるほど納得!と思いました。
確かに彼の作品に通じる人物描写だなぁ、と。
人の人生って人間関係によるところが大きいですが
リチャードは良き友人を持ちました。それも
彼の素直な気持ちがその関係性を築いたと言えますね。
報道記者や彼を吊し上げたFBI捜査官のその後が
語られませんでしたが、それもクリントイーストウッド
なりの視聴者への問いかけなのでしょう。
あまり注目されている映画とは思えませんが、
今年の推したい一本でした。
全298件中、101~120件目を表示