「出る杭を打つ、悪意無き正義の暴力。」リチャード・ジュエル マツマルさんの映画レビュー(感想・評価)
出る杭を打つ、悪意無き正義の暴力。
クリント・イーストウッドが監督した作品は総じて見応えがあり、個人的にはハズレ無しの作品で今作も予告編を見た時から、観たいなぁと思い鑑賞しました。
で、感想はと言うと、見応えあります♪
実際に起こった事件を題材にしてますが、とても見応があって好きです。
クリント・イーストウッド監督は他の方も書かれてますが、作品のテーマ選びが上手い。
自分の琴線に引っ掛かるのが多いんですよね。
役者としても一時代を築かれ、監督としても名監督として功績は今更ながらですが、紛れもないと思います。
アトランタ爆破事件はなんとなく知ってはおりましたが、この作品観て思ったのは改めて権力を持った人間の怖さとマスコミの暴力は怖いと言う事。
ブルース捜査官が事件記者のキャシーに初捜査での容疑者に上がっていたリチャードをしたり顔で漏らした事から、FBIが引くに引けなくなった事や、マスコミのキャシーが自分の出世欲と顕示欲で過剰にリチャードを犯人として煽りまくる。
もう、怖すぎる。
劇中のクライマックスでリチャードが“第一発見者が証拠を無いのに犯人に仕立て挙げられる事がまかり通れば、今後誰も第一発見者として名乗り出なくなるだろう”はまさしく真理かと思います。
ですが!
犯人がリチャードでないと言うのを分かって観ていても、なんだかリチャードが犯人なのかな?と思い込んでしまう。
それくらいリチャードが調子に乗り過ぎていて、時折胡散臭く見えるw
いろんな言動も行動も趣味も犯人っぽく思えるw
特に銃は持ち過ぎでしょうw
リチャードが過剰に“自分も法執行官だから”と発する度になんだか鼻に付くし、弁護士のワトソンが苦労する。
この作品はリチャードが大勢の人を救った英雄から、一躍容疑者になってしまう悲劇を描いていますが、ワトソンのリチャードを信じる心とリチャードに振り回される苦労の物語でもあるかなとw
ホント、リチャードがいらん事をする度にワトソンが四苦八苦する。
“ワトソン偉いなぁ~”と思いつつ、“自分だったら、そんないらん事ばっかりするなら、もう俺は知らん!”と匙を投げますw
正義感が強すぎて、様々な軋轢とトラブルを起こすリチャード。
そこまで正義に殉じる気持ちは何なんだろうと考えます。
容姿からのコンプレックスなんだろうか?
でも、その気持ちがあるからこそ、功績と悲劇が生まれたんですが、このバランスが凄く良いんですよね。
ワトソンと出会いも良いんですよね。
スニッカーズが食べたくなりましたが、スニッカーズって飲み物が無いと口の中がキャラメルでにちゃにちゃして食べずらいですw
でも、それくらいリチャード役のポール・ウォルター・ハウザーが上手いです。
あと個人的にはキャシー役のオリヴィア・ワイルドが良い感じで嫌な女を演じてるのがお気に入りw
難点があるとすると、リチャードが犯人でない。犯行を行えないとされる公衆電話からの爆破予告の連絡での距離の件りの検証の描写があっさりさっくりし過ぎ。
弁護士のワトソンもキャシーも検証の結果、リチャードの犯行ではないと確信するが、割りと簡単に検証して分かる程なのか?と言うのと、その描写が薄過ぎる。劇中で“バイクで移動したら可能かな”と言った台詞があったけど、そんな簡単な検証で分かるのは簡単にリークした事で引くに引けなくなったFBIの威信って…と思ってしまう。
この時のFBIは完全に悪に見えますよね。
リチャードからあの手この手で犯行の証拠となる様な糸口を取ろうとしてますが、これが完全な捏造による操作なのか、取り調べの一環なのかが分かんない。
観ている側でも疑心暗鬼になるんだから、リチャードはもっと疑ってかかっても良いのにと思ってしまう。
また、キャシーも検証後の態度が変わり過ぎですw
「真実は一つ!」なんて言葉がありますが、そこに至るまでの過程は様々にあります。
日本でも冤罪事件は沢山あって、自分達が知っている冤罪事件なんて多分氷山の一角。
ただ、テレビや新聞などで報じられる情報を頭から疑ってかかる人は少ないと思うし、またマスコミの情報操作から、報じられた人が犯人に見えてくるし、そう思えてしまう。
劇中のキャシーは悪いマスコミの見本みたいに見えてしまうのはかなり意図的かと思いますが、それでも劇中の新聞やニュースに映ってるリチャードの顔は悪い顔に見えますw
「出る杭は打たれる」と「油断大敵」がリチャードに当てた言葉ですが、それでも正義の旗の元に行動した事で悲劇が生まれた事を考えるとアメリカンドリームなんて言葉は何処か遠い過去の物語かと思えてしまいますが、この事件は決して他人事でもないんですよね。
見応えがあり、重厚でサスペンスドラマのお手本の様な作品かと思います。お薦めですよ♪
bionさん
コメントありがとうございます。
クリント・イーストウッド監督の作品は公開前はそんなに気にしないんですが、やっぱり気になる作品として鑑賞したくなるんですよね。骨太の作品ばかりで、鑑賞後の余韻は映画を観たって感じがしますね。
また、お暇がありましたら、覗きにきて下さいね♪