劇場公開日 2020年1月17日

  • 予告編を見る

「クリント・イーストウッドの冷静な視点」リチャード・ジュエル ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5クリント・イーストウッドの冷静な視点

2020年1月18日
iPhoneアプリから投稿

911の同時多発テロで、その前のテロ事件は忘れられがちだが、アトランタで発生した96年7月の公園爆破事件の前、93年2月に世界貿易センタービルで爆破テロが発生した。
6人が亡くなり、1000人以上の負傷者が出た。
湾岸戦争後のイスラム過激派によるものだった。

その為、当時は、先進諸国はテロには無力だと言われることが多く、この公園爆破事件はFBIにとっては沽券にかかわる問題だったのだ。
そして、FBIにとって、迅速な事件解決が最大の命題になっていた。

真犯人を捕らえない限り、真の解決にはならないことを理解しながらも、犯人のでっち上げに動く司法当局。
司法当局とメディアの馴れ合い。
メディアの暴走。

結局、これらのテロでも米司法当局は多くを学ばず、複数の有力な情報を得ながらも、その分析、FBIとCIAの協業が機能しなかったことなども要因となり、911のテロを防ぐことは出来なかった。

だが、この映画では、こうした司法やメディアの問題に留まらず、クリント・イーストウッドは、アメリカにあって、典型的な善良と考えられている市民の気質や、陥りやすいトラップを、ある意味、冷静に示したかったのではないか。

頭でっかちで、他人の助言に耳を傾けず、独りよがりの行動や発言をしてしまう。
自分の成果を更に誇張しようとする。
リチャードは、後のインタビューで爆弾のリュックを見つけた時に、さも自分一人で見つけたように嘯いていたではないか。
都合の悪いことは、ごまかしながらしか話さない。
細かいところに気を取られ、フレームワークで思考できなくなったりする。

こんな状況になったら、皆んな同じかもしれない。
しかし、こういう時こそ、冷静な視点が必要なのだ。

現代のネット社会では、なんの権限も無いのに、司法とメディアを一緒にしたような行動を取る輩が数えられないほどいる。
自尊心は一丁前に高いくせに、自分の犯した事について罪悪感を感じることは少ない連中だ。

僕達は、普段から自らの行動を律すると同時に、事実を積み上げることで対抗するしかないのだ。

現代社会に対して警鐘を鳴らすような作品だと思った。
考えすぎだろうか?

ワンコ