「キーワードは「見る目」」ファーストラヴ バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)
キーワードは「見る目」
島本理生の第159回直木三十五賞受賞作「ファーストラヴ」の映画化であるが、2020年にもNHKの2時間ドラマとして一度映像化されている。
ドラマ版の主人公を演じていたのは、真木よう子で今回は北川景子という、「セリフ読んでます感」全開の女優繋がりではあるのが、今作に関しては、その北川景子の棒読み感、セリフ感が良い方向に機能しているといっていいだろう。
というのも主人公の公認心理師・真壁由紀というキャラクターは、自分の過去やトラウマから身を守るために、常にバリアを張っているようなキャラクターだからである。
セリフを呼んでいるだけのような、いつもの北川景子の演技が、「普段、冷静に振舞っている人もこんなに取り乱すことがあるんだ」という風にリンクすることによって、今回は凄く馴染んでいるし、事件の真相を探ることで、自分の過去とも向き合っていき、次第に心の傷を吐き出すようになっていく過程を上手く表現できているのだ。
キャラクター性を理解した上では、ドラマ版で真木よう子がキャスティングされた理由も何となくわかってくるのだが、普段は北川景子の演技をそう思ってるのかな…という、キャスティングした人の無意識な悪意も感じられなくない。
若手注目株女優の芳根京子も最近では、土屋太鳳とダブル主演の『累』や先日放送されたドラマ『君と世界が終わる日に』など、2面性のあるキャラクターが得意になってきたこともあって、見事な熱演だ。
これは社会の構造や概念が自然にそうさせている部分があるのかもしれないが、男性が女性をみる目線というものの、根本的な食い違いにメスを入れていて、その中でも被写体や道具のようにしか思っていない男もいる。
環奈がアナウンサー試験を受けたときの目線というのが、面接としてではなく、女性を見る男の視線だったという指摘が、今日のアイドルのような選出のされ方をしている大手放送局アナのあり方を捉えているようでもあった。
環奈の起こした事件をきっかけに、まだまだ蔓延る男性社会の抱える問題点を浮き彫りにしていく。
その中で心理的損傷を負ってしまう女性がいるということ、初めて信じた人、恋した人にも人間同士としてではなく、あくまで異性として意識した目線で見られてしまったということ、それを受け入れて「男なんてそんなもの」だと割り切って生きていくしかないこと…これも問題で、逆に男性差別にもつながっていったりもするのだが、そこはあえて、出来過ぎなぐらいの懐の広い我聞というキャラクターや過去には過ちを犯したが今は違った観方ができている迦葉や小泉を配置することで不毛な問題にも光を与えているようにも感じられた。
テーマとしているものとしては、全く違うが、事態が二転三転する法廷劇という点では福山雅治主演の『三度目の殺人』という作品があり、その作品では更に四転させることでミステリー要素を際立たせてみせたが、今作はそういったミステリー作品と比べれば、実にストレートなメッセージ性を持った作品である。
時には男女の恋愛や性欲といったものへの感覚の違いをコメディの題材として扱ったりすることも多いが、一方では、そういった感覚のズレによって、トラウマとなり、一生の傷になる人もいるということを忘れてはいけないのだ。
感情とは別に動物的でオスとメスのような潜在意識によるものもあったりして、一筋縄ではいかないことではあるのだが、人間であるが故に、割り切っていいのかという意識も働いたりして、つくづく厄介な生き物であると感じずにはいられない。
環奈と由紀の過去に触れ、心が抉られていくことで、社会や男女間意識構造の闇に触れていくようで、常に2人の投げかける言葉が心に突き刺さる作品だ。