「探偵はアメリカの闇を見た」マザーレス・ブルックリン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
探偵はアメリカの闇を見た
エドワード・ノートン19年ぶりの監督作で、製作・脚本・主演まで兼任して同名小説を映画化。
それほど惚れ込んだのも分かる面白味のある探偵ノワール。
1957年のNY。
自分を拾ってくれた恩人で友人の私立探偵フランクがある一件を追っている最中、殺された。
彼の部下のライオネルは僅かな手掛かりを頼りに犯人を追う内に、大都会の闇の中へ足を踏み込んでいく…。
原作では90年代だった設定を50年代に。
これによりさらに往年のフィルム・ノワールを醸し出し、
探偵、殺人×ミステリー、
ジャズや渋いムード…。
これらに惹かれる人は見て損ナシ!
144分と長尺だが、むしろじっくり作品世界に浸る事が出来る。
とても19年ぶりとは思えないノートンの演出手腕。
探偵モノと言えば、主人公像。
正統派タイプ、ヒーロータイプ、アウトロータイプ、異色タイプ…。
本作は一番後者に当たると言うか、異色も異色。劇中の人物の言葉を借りるなら、“フリークス”“頭がイカれてる”などなどなど…。
何故なら、「イフ! イフ!」。
突然意味不明な言葉を繰り返し発する“トゥレット症候群”を患う主人公。
初めて知った障害。
張り込み中も人と話してる時も普通の日常生活の中でも、それが治まる事は無く。
主人公はかなりの重度のようだが、実際に患う人はそれだけで辛いだろう。
でも、映画の主人公の性格付けとしては苦悩と共にユーモラスさも加味。
この症状はストレスや不快な気分になった時に起こるらしく、主人公がヤな奴に会った時に暴言的に吐いたり、煙草を差し出した妖艶な女にマッチで火を付けようとして自分で何度も何度も消したり、ついついクスッと笑ってしまった。
しかし、単なる奇病探偵ではない。
人並み外れた記憶力を持ち、それ故ボスに気に入られた。
その記憶力を活かし、探偵としてこのヤマに挑む。
まず浮かび上がったのは、市長以上に力を持つ市の黒幕男による都市開発計画。
一見さらに発展するより良い都市作りだが、その矛先は貧困地区や黒人居住区。
それに対し、同市民は猛抗議。
黒幕男は人種差別者でもある。
この何らかのいざこざに巻き込まれた…?
いや、腑に落ちない点が。
ボスはローラという若い黒人女性を特に追っていた。
これらには何の繋がりが…?
複雑に交錯し、遂に全ての謎が明らかに。
事件の真相は“大都会の闇”なんて謳われ、確かに政治的陰謀も絡む。
しかし、もっとこう、ある人物の出生の秘密とか、ある人物の二面性や欲とか、“大都会”より“人間”に深く入り込んでいる。
小難しい政治絡みより、この真相の方がずっと響くものがあった。
“トゥレット症候群”は役者泣かせの難演。でも、そこはエドワード・ノートン、さすがの巧演。
出番は序盤のみだがブルース・ウィリスのカッコいいボス役、黒幕役のアレック・ボールドウィンの存在感、ウィレム・デフォーのクセ者ぶり。
作品世界に合う漢たちが渋い魅力を発揮する中、ググ・バサ=ローが華を添える。何処かファム・ファタール的でもある美しいヒロイン。
別にネタバレチェック付けてもいいが(一応チェック)、やはり探偵ミステリーは実際見てこそ面白い。
が、敢えて少しだけ触れるとしたら、このヤマには人種問題が絡む。エンタメ探偵映画でもあるが、そこがノートンが映画化を熱望した点でもあるだろう。
人種問題と言えば、今まさしく、またアメリカで起こった。
白人警官による黒人男性暴行死、それによる抗議デモ…。(便乗した略奪などは全く以て理解し難いが)
概要は全く違うが、本作でもアメリカが今も抱える問題を見た。
探偵が辿り着いた真相とは、大都会や人間の暗部でもなく、変わらぬアメリカそのもの闇であった。