マザーレス・ブルックリンのレビュー・感想・評価
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ジャズに浸って楽しむ映画
友人であり、恩人であり、ボスでもあるフランクの死の真相を追うライオネル。残されたのはわずかな手がかり。事件を追ううちに街を支配する黒幕の影が朧気に浮かび上がってくる。
こんな直球のハードボイルドでありながら、全編に流れるジャズがクラシカルさとモダンさを上品に融合させつつ、リラックスしたムードでの鑑賞に一役買っている。
ライオネルがトゥレット症候群による汚言症と抜群の記憶力を持っているせいもあって、映画は言葉の洪水だ。メモを取らなきゃ理解が追いつかないほどの情報の波に揺られ、ともすれば溺れてしまってもおかしくない。
そこへ常に流れ続ける音楽が軽やかなリラックス効果をもたらし、「まあまあ、肩の力を抜きなよ」「犯人探しはライオネルに任せて、ヤツの頑張りを見守れば良いよ」と囁かれているかのようだ。
主演のエドワード・ノートンを筆頭に、アレック・ボールドウィン、ウィレム・デフォーと渋目の豪華キャストな所も良い。
私個人としては「処刑人」で初めてデフォーを観た時から大好きで、何を演じても説得力のあるキャラクター造形にいつもメロメロだ。
貧乏臭い風貌でも、胡散臭い風体でも、高潔さを感じられるあの雰囲気がたまらない。
もう一人のキーパーソンであるアレック・ボールドウィン演じるモーは、初登場時ずっと後ろ姿なのだが、体格や仕草や歩き方がパワフルで尊大さに満ちていて、生命体としての強さが伝わってくる。
お年を召してからのアレック・ボールドウィンには威厳を感じる。体格のせいもあるのだろうが、貫禄も充分、見応えも充分。
予告編にも使われていたけど、「影武者」のオマージュのような、モーの影が街灯に浮かび上がり、徐々に大きくなっていくショットが、モーの力の強さを表している。
監督・脚本も務めるノートンは「トランプが大統領になった今、映画と現実がリンクする最高のタイミング」と語っていたが、作品の中で描かれる強者と弱者の物語を表現するのにこれ以上のキャスティングは無いだろう。
強者には強者の理屈と理論があり、強者にしか成せない事柄がある。強いからこそ邁進できる仕事があり、強いからこそ痛みを無視できる。
しかし、少し視線をずらしてみれば、弱者にも色々な個性があり、それは必ずしも弱点ではない。もっと言えば、弱者にしかない美しいものを、弱肉強食の世界は永遠に失ってしまう。
弱いからこそ目を向けられるもの。弱いなかにもさりげなく光るもの。弱いものが集まって生み出す美しいもの。
「強くあれ」と強制される世の中には、見落としている価値がある。
作品全体に漂うクラシカルな雰囲気と、いぶし銀の演技、緻密なストーリーをジャズを聴きながら楽しめる。完全に大人の贅沢な映画。
躍起になってストーリーを追ったりせず、リラックスして楽しむべし。
ミステリ要素たっぷりの探偵物語
ノートン監督
黒幕は
派手さはないけど…
エドワード・ノートンが地道に探偵捜査を続け、事件の真相に辿り着く。出演陣も豪華で上手いし、全体的に落ち着いた雰囲気も良く、真相に近付くにつれて、盛り上がりを見せるが、隠し事はアレクの娘だったということにこれだけ?と思ってしまった。あと、脳に障害があり、思ったことを口走ってしまうノートンの設定は記憶力が良いというだけで不要な気がする。
トランペット
曇り空が印象的
少し長いかな・・・
育ての親ともいうべき探偵を目の前で殺された主人公が、仇をうつべく奔走する物語。
エドワード・ノートンが監督・脚本・主演するサスペンス映画です。
1950年代のブルックリンのセット、それに相応しい登場人物達の魅力、そして輻輳する謎。
意外にハードボイルドタッチのサスペンスが、物語に引き込みます。
やや輻輳させ過ぎで、分かり難さを醸し出すのが残念なところ。ベストセラーが原作のようですが、本なら理解出来るところも映画では難しく感じることもあります。もう少し整理した方が良かったかもしれません。
ラストの謎の部分も、個人的には少し拍子抜けの感じがして・・・微妙に感じました。
ただ、それでも一見の価値があるサスペンス映画だと思います。
レビュー
凝ってはいるが楽しくはない!!
出だしの台詞回しで「苦手かも」と思いましたが、前半で主人公の特性を知っていくにつれて映画の世界に入る事ができるのは良い体験でした。箱庭ゲーのように様々な場所を訪れるものの、物語そのものより主人公の症状に意識が行ってしまい、また結局は雰囲気が好みかどうかというものなので、長いし楽しくはありませんでした。
何度も言う、ハルクに戻ってほしい。
トゥレット症候群(チック症に似ている)を持ちながら、すばぬけた記憶力で殺人事件に挑む私立探偵をエドワード・ノートン。
ひ弱そうでいながら頼もしい演技力にはこのたびも引き込まれました。
...しかし、どうしてもハルクに戻って欲しい。
探偵はアメリカの闇を見た
エドワード・ノートン19年ぶりの監督作で、製作・脚本・主演まで兼任して同名小説を映画化。
それほど惚れ込んだのも分かる面白味のある探偵ノワール。
1957年のNY。
自分を拾ってくれた恩人で友人の私立探偵フランクがある一件を追っている最中、殺された。
彼の部下のライオネルは僅かな手掛かりを頼りに犯人を追う内に、大都会の闇の中へ足を踏み込んでいく…。
原作では90年代だった設定を50年代に。
これによりさらに往年のフィルム・ノワールを醸し出し、
探偵、殺人×ミステリー、
ジャズや渋いムード…。
これらに惹かれる人は見て損ナシ!
144分と長尺だが、むしろじっくり作品世界に浸る事が出来る。
とても19年ぶりとは思えないノートンの演出手腕。
探偵モノと言えば、主人公像。
正統派タイプ、ヒーロータイプ、アウトロータイプ、異色タイプ…。
本作は一番後者に当たると言うか、異色も異色。劇中の人物の言葉を借りるなら、“フリークス”“頭がイカれてる”などなどなど…。
何故なら、「イフ! イフ!」。
突然意味不明な言葉を繰り返し発する“トゥレット症候群”を患う主人公。
初めて知った障害。
張り込み中も人と話してる時も普通の日常生活の中でも、それが治まる事は無く。
主人公はかなりの重度のようだが、実際に患う人はそれだけで辛いだろう。
でも、映画の主人公の性格付けとしては苦悩と共にユーモラスさも加味。
この症状はストレスや不快な気分になった時に起こるらしく、主人公がヤな奴に会った時に暴言的に吐いたり、煙草を差し出した妖艶な女にマッチで火を付けようとして自分で何度も何度も消したり、ついついクスッと笑ってしまった。
しかし、単なる奇病探偵ではない。
人並み外れた記憶力を持ち、それ故ボスに気に入られた。
その記憶力を活かし、探偵としてこのヤマに挑む。
まず浮かび上がったのは、市長以上に力を持つ市の黒幕男による都市開発計画。
一見さらに発展するより良い都市作りだが、その矛先は貧困地区や黒人居住区。
それに対し、同市民は猛抗議。
黒幕男は人種差別者でもある。
この何らかのいざこざに巻き込まれた…?
いや、腑に落ちない点が。
ボスはローラという若い黒人女性を特に追っていた。
これらには何の繋がりが…?
複雑に交錯し、遂に全ての謎が明らかに。
事件の真相は“大都会の闇”なんて謳われ、確かに政治的陰謀も絡む。
しかし、もっとこう、ある人物の出生の秘密とか、ある人物の二面性や欲とか、“大都会”より“人間”に深く入り込んでいる。
小難しい政治絡みより、この真相の方がずっと響くものがあった。
“トゥレット症候群”は役者泣かせの難演。でも、そこはエドワード・ノートン、さすがの巧演。
出番は序盤のみだがブルース・ウィリスのカッコいいボス役、黒幕役のアレック・ボールドウィンの存在感、ウィレム・デフォーのクセ者ぶり。
作品世界に合う漢たちが渋い魅力を発揮する中、ググ・バサ=ローが華を添える。何処かファム・ファタール的でもある美しいヒロイン。
別にネタバレチェック付けてもいいが(一応チェック)、やはり探偵ミステリーは実際見てこそ面白い。
が、敢えて少しだけ触れるとしたら、このヤマには人種問題が絡む。エンタメ探偵映画でもあるが、そこがノートンが映画化を熱望した点でもあるだろう。
人種問題と言えば、今まさしく、またアメリカで起こった。
白人警官による黒人男性暴行死、それによる抗議デモ…。(便乗した略奪などは全く以て理解し難いが)
概要は全く違うが、本作でもアメリカが今も抱える問題を見た。
探偵が辿り着いた真相とは、大都会や人間の暗部でもなく、変わらぬアメリカそのもの闇であった。
ジャジーで雰囲気抜群の探偵物語
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