劇場公開日 2020年6月5日

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「この映画の知識(歴史)は知っておきたいエンターテインメント」ハリエット 山田晶子さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0この映画の知識(歴史)は知っておきたいエンターテインメント

2020年6月26日
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鑑賞方法:試写会

本作は「ハリエット・タブマン」という人物に焦点を当て、彼女の人物像、そして彼女を取り囲んでいたアメリカの人種差別の実態などを照らし出していく。
私は、ハリエットが「奴隷解放運動家、女性解放運動家」ということのみ薄っすら知っていたが、活動の裏側などは全く知らなかったので素直に勉強になった。しかも、本作が魅力的な作品であるおかげで、作中では詳しく描かれていない部分にまで興味を持たせてもくれた。
もちろん予備知識がなくとも彼女の人物像や偉業はすんなりと伝わってくる。特筆すべきは主人公ハリエットを演じた女優シンシア・エリボの演技、そして歌声。ストーリーに親近感と深み(感情)を与えた彼女の演技がアカデミー主演女優賞にノミネートされたのは当然であろう。しかも、演技と同様に強烈なインパクトを与えた劇中歌「スタンド・アップ」でもアカデミー歌曲賞にノミネートされ、彼女のパワフルな歌声も本作の格式を大きく上げたほど素晴らしい出来栄えであった。
本作は、見る者を飽きさせない骨組と肉付けのバランスの良い優れた脚本が功を奏し、ハリエットの生涯を軸に、奴隷解放運動がどのような組織として成り立っていたのかも分かりやすく解説されている。
キーワードとなるのが「秘密組織」。「秘密組織」と言っても怪しい感じのものではなく、「地下鉄道(Underground Railroad)」という素敵なネーミングの組織で、ハリエット自身は、その秘密組織の「車掌」として任務を全うする。
彼女の歴史がエンターテイメント作品としても成立しているのは、「彼女の志の強さと天性の行動力が融合されているドラマティックな人生の証」なのだと思う。
なおハリエットは、2020年に発行される予定だった20ドル札(紙幣偽造問題で当面延期に)で、アフリカ系アメリカ人で初のアメリカドル紙幣にデザインされる事が決まっていたなど、現在も彼女のスピリットは生き続けている。

山田晶子