「覚悟と再生産の集大成」劇場版 少女☆歌劇 レヴュー・スタァライト audさんの映画レビュー(感想・評価)
覚悟と再生産の集大成
初回視聴で胸を刺す衝撃を浴びすぎて、既に3度視聴しています。
TVシリーズから追いかけてきた今作で、いよいよ「卒業」という言葉が出てきます。
各キャラクターの成長、言葉にも溢れ出る感情が止まりませんが、
エンタメとしての感想と、一歩引いた視点でふと思ったことを以下に記します。
①エンタメとしての感想
演出、音楽、脚本、(それ以外の部分も含めて)で物凄いこだわりを持って完成度の高いものを魅せてくれる素晴らしい映画です。私は一般人に過ぎませんが、その感性を持ってしても、凄まじい熱量を感じながらエンタメを堪能できて、本当に幸せな時間を過ごせました。
フィルムスコアリングは確かTVシリーズ時から採用されているものだったかと思いますが、場面やセリフに呼応する音楽、また歌唱パートでない部分の音楽も恐ろしいくらいに填っています。(レヴューシーンはもちろんのこと、決起会シーンの泣きのアレンジには青春の1ページが切り取られた感動と、してやられた感にため息がもれました。)歌詞を含めて、観客が全信頼を置いているといっても過言ではない布陣が観客を次々と魅了していきます。他楽曲で使われていたモチーフが様々な形でアレンジされており、レヴュー曲も含めて多数の作曲家・編曲家が携わっている中で、ここまで多様性を活かしながら融合されているのは見事です。楽曲単体でも、「再生産」を随所で感じられ、観客でいられることにひたすら感謝させられる音楽を堪能できます。
耳だけでも十分に楽しめる、と言いたいところですが、映像表現との相乗効果こそ、この作品の真骨頂です。次々と繰り出されるあっと驚く表現に目が離せなくなります。
レヴューシーンは順番、マッチアップ、決着(敢えて勝敗とは記しません)含めて、観客がみたいものを余すことなくみせる構成だったのではないかと思います。導入のレヴューでは、これまであまりなかったような空気を震わすような重低音が響くサウンドからの、1対多数という異様な幕開けで、観客にこれまでとは何かが違うと予感させるスタァライトの世界へ没入させる導入を果たしています。その後に続くレヴューシーンは、舞台装置という名のクリエイターの熱意が発動しまくり、次々と展開する衣装、世界観がキャラクターの魅力を存分に引き出します。各キャラクターのファンであれば初回視聴で魂魄が抜けるような衝撃を受けたのではないかと思われます。途中で燃料として炎上するキリンには、間違いなく映画館で視聴する自分自身が重なりました。お金を払って何度もみる価値がある作品であると間違いなくお勧めできます。
顔面(表情)や目まぐるしく展開する映像の美しさに目を焼かれるのもさることながら、華恋とひかりの幼少期のシーン等、日常のエピソードすら愛おしく思えるのは、自分の記憶の中にも近しい体験があるからなのではと錯覚させる表現に長けているからなのではないかと思われました。東京タワー、トマト、カスタネット、地下鉄等、観客の身近にあるものが登場することで、より作品への共感が生まれ、作品との距離を近くしていた気がします。非日常的なシーンの中に散りばめられた要素のデザイン、用い方等も非常に巧みであったと感じました。(自分がさも経験したことがあるような懐かしい記憶のリバイバル体験要素を感じました。)
他の観客の皆さんの感想等読むのも非常に楽しく、特典をわざわざ額縁に入れて飾る様子等には思わず温かい笑みがこぼれました。深く愛される作品の観客でいられることもまた、幸福なことであるとしみじみと思います。
②観客として
「舞台少女」という表現がたまらなく胸に響くからこそ、演者についてこれまで触れませんでしたが、今回の「舞台で生きていく」というテーマは、演者にとっても物凄く重いものだったのではないかと思えてなりません。1つの舞台が終わって、「私」が行き着く先は…という問いの先に、自ら「次の舞台へ」という1つのテーマを見つけていくストーリーではありますが、「舞台少女」でい続ける、というのは非常に大きな代償と覚悟が必要なものだと想像します。
余談ですが、同シリーズのアプリのシナリオでも、ときたま舞台に関わる演者視点でのなかなかにヘビーな明暗が描かれますが、特に経歴が浅い演者の方(ともすれば経歴の長い方でさえ)が真正面からぶつかるには非常に酷なテーマだと思うこともあります。今回の作品では、素晴らしいクリエイターの方々が他作品では珍しいくらい、作品のこだわりを熱く語ってくださる機会がありますが(観客としては嬉しいことこの上ない)、演者の方からの「舞台」そのものに対するお話を聞けるのは、皆さんが本当に何某かの覚悟や決意が決まった時、もう少し先でも良いのかなと思います。演者の皆さんが、人生に迷う自分とあまり年が変わらないからこそそう思うのかもしれませんが、それだけ本当に人生をかけて向き合うような大事な命題であると思うのです。そして、今回の映画は特に、役と演者に、観客からは見えない部分で距離があるべき、また観客は同一視すべきではないのではないかと感じました。役と演者がリンクしているように見えがちだからこそ、この作品の観客としては常に「演じている」のが役者であることを忘れないようにしたいという感想を改めて抱きました。
誰しも何か1つでも熱中した経験があれば、かつての輝かしい舞台の再演に執着していたななの気持ちが痛いほどよくわかるのではと思います。舞台にかける熱い想いは一瞬のきらめきだからこそまぶしくてたまらない、「次の舞台」での皆さまのご活躍を陰ながらお祈りしております。