「少し強引だけれど、それを跳ねのけるくらい説得力のある草彅剛の実在感」ミッドナイトスワン Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
少し強引だけれど、それを跳ねのけるくらい説得力のある草彅剛の実在感
「ミッドナイトスワン Midnight Swan」。
元SMAP“新しい地図”のメンバー(稲垣吾郎、香取慎吾、草彅剛)は、すっかりテレビ出演が激減。ほぼCM露出ばかりだが、これも元事務所への“見えない忖度”という芸能界の空気感なのだろう。とはいえ、出演中のテレビCMはコメディ要素が多く、シリアスな面は映画に期待するしかない。
その点、映画における出演ブッキングは比較的、狙い通り作品を選べているように見える。
香取慎吾は白石和彌監督の「凪待ち」(2019)、稲垣吾郎は阪本順治監督の「半世界」(2019)とそれぞれ名監督のオリジナル作品に主演し、想定以上の演技の幅を見せている。さらに稲垣吾郎は2020年11月公開で二階堂ふみと共演で、手塚治虫原作「ばるぼら」の実写版が控えている。
さて。草彅剛はどうした? 元SMAPで最多の映画出演数(キムタクの約2倍)で、味のある主演作品も多い草彅剛。満を持しての本命登場である。
本作はあえて俗な呼称でいえば、“オカマおじさん”役。どうしても、かつての「SMAP×SMAP」のコントや、最近の“スカルプD”のハゲづらCMなど、ギャグ路線を彷彿とさせるが、いたってマジメ。最初は笑いそうになるがグイグイと引き込まれる。
トランスジェンダーである主人公(草彅剛)が、ひょんなことから児童虐待を受けた少女を引き取り、オトコお母さんと娘の擬似愛に展開していく。内田英治監督オリジナル脚本で、これも先の稲垣吾郎と香取慎吾同様、“新しい地図”3人ともオリジナルストーリーに挑戦している格好だ。
トランスジェンダーであることを実家や親族には隠したまま上京し、新宿のニューハーフショークラブのステージに立つ、凪沙(なぎさ)。
ある日実家からの電話で、親類の娘である、一果(いちか)を一時的に預かることになる。一果は母親の育児放棄と虐待で保護されていた。渋々ながらも凪沙は、養育費目当てで引き受ける。上京してきた一果を、女装の格好のまま迎える凪沙。
最初は距離をおく二人だったが、凪沙は独りでの社会からの孤独と似た感覚を、育児放棄され愛情を求める一果に感じ始め、徐々にひかれ合っていく。やがてバレエダンサーに憧れる一果の夢を叶えようと、転職まで考え始める。
大筋はなんとなく分かるといった感じなのだが、設定がかなり大ざっぱで、大胆に展開されていくので、エンディングの意味も含め、あらかた観客の想像力に任されている。
そもそも親類とはいえ、東京の独身男性の家に、10代の少女を預けないだろう。設定に無理がある。ニューハーフの生活、性転換手術の実態やリスクなどの情報が足りない。児童虐待の経緯やその実母の言動(セリフ)などももっと丁寧に描写してほしいし、脚本が強引すぎる。
それでもそれらを跳ねのけるくらい説得力のある草彅剛のトランスジェンダーの実在感。
孤独な男性が、やはり愛情に薄い子供の純粋無垢さに惹かれるといった構図は、ふと「レオン」(1994)が頭をよぎったが、かたや“暗殺者”、こっちは“ニューハーフのバレエショー”である(笑)。笑いから涙への落差もいいかんじ。
バレエレッスンのシーンが美しい、少女・一果役には、オーディションで選ばれた新人の服部樹咲が演じている。これも意外と見どころ。
(2020/9/27/TOHOシネマズ日比谷 Screen8/ビスタ)