「私、こわい? 私、気持ち悪い?」ミッドナイトスワン 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
私、こわい? 私、気持ち悪い?
切ない。そして、儚い。
草彅剛の演技はどうか、と聞かれれば、どうも男が抜けていない、と感じた。例えば肩が張った歩き方とか。でも、まったく女にしか見えないトランスジェンダーを演じ切るよりもリアリティはあった。そこに、世間からゲテモノ視されながら生きている悲哀が漂っていたからだ。
そんな、一人で生きてきたナギサの目の前に、一人ぼっちにされてきたイチカが現れる。どん底同志の二人ながら、一人は夢を自らの手で掴んでいき、一人は我が身を捧げながら朽ち果てて行った。でも、二人とも同じ思いだろう。幸せかと言ったらそうでもないだろうけど、少なくともお互い自分の出来ることに精一杯向き合い、結果としてイチカの夢を叶えられた(ようとしている、が正しいが)のだから。だから、僕にはハッピーエンドに思えた。
主演はもちろん草彅剛なのでストーリーはナギサを追いかけるのだが、これをイチカ視点で物語を進めてみてはどうだろう?とも思った。・・・笑顔が素敵で、社交的とは言えずとも凛とした、NYで成功した日本人バレリーナがいる。さぞこれまで恵まれた環境で英才教育を受けてきたのだろうと周りは才能と出自を誉めそやす。しかし、彼女はその過去を語らなかった。そんな彼女の成功の陰には、身を削って尽くしてくれたトランスジェンダーの親戚のオジサン(!)と、イチカの人格すべてを愛してくれながらも失意のまま去っていった友人の存在があった。的な。イチカの華やかさだけでなく、人間そのものの強さが際立つと思う。
それにつけても、イチカとリンの二人のキャスティングの絶妙さ。草彅の存在はもちろんながら、この映画のクオリティは、この二人がいてこそだと言って過言ではない気がする。
正直、トランスジェンダーの方々の本当の気持ちなんてわからない。むしろ、わかっているっていうのは偽善だと思っている。だけど、それで生きている人がいることの事実はわかっている。そして彼ら彼女らが、苦しみながら生きているということも。