「この感覚は何なのだろうか?」ミッドナイトスワン プールサイドさんの映画レビュー(感想・評価)
この感覚は何なのだろうか?
気が付くと自分で自分を軽く抱きしめている。
心が満たされる感覚と空っぽになる感覚を同時に感じました。
草彅剛さん演じる凪沙らトランスジェンダーの彼女たち、今作で女優デビューとなった服部樹咲さん演じる一果とその同級生りん。みんな「自分の立場に苦しみながら世の中をもがいて生きている」というより「自分という生命を必死で輝かせようとしている」という印象でした。
草彅さんは素晴らしい俳優さんですが、今回はまた別格です。
冒頭お客さんの接待中に照れで頬を両手で覆う仕草を見た瞬間、この作品に取り込まれてしまいました。
本当に終始美しかった。
服部さんも初めての御芝居とは思えないくらい良かった。
凪沙を見つめる目の変化などは形としては簡単だと思います。
しかし、そこからちゃんと凪沙への想いも伝わって来るのですから素晴らしい。
たまに1エピソードの展開が短かったかなと感じることもありましたが、これらは蓄積なのだと思いました。
この作品は過程が最大の魅力ではないでしょうか。
もちろんラストも感動しましたし、綺麗に描けていましたが、そこよりもさらにアルバイトがバレてしまった帰り道や一緒にした夜のバレエ練習、2人の気持ちと過ごす時間が親子のモノになっていく過程に文頭のような2つの感覚がありました。
作中で多かったバックショット。
距離とかではなく「向こう側」、綺麗な後ろ姿なのに痛みや憂いを感じざるを得ません。
ラスト浜辺で踊る一果を見つめる凪沙が「綺麗、綺麗…」と呟きます。
自分もあんな風に踊れる白鳥になりたかったんでしょうね。
草彅さんが自身が出演された作品の中で今作が1番終わってから席を立てなかったと仰っていました。
納得です。
僕も映画館は出たものの、近くのベンチに座り浸ってしまっています。
劇中とエンドロールで流れる渋谷慶一郎さんの『Midnight Swan』が頭から離れません。
今僕の目に映る全ての光景が映画になっています。