「演技はとてつもなく素晴らしい。が...」ミッドナイトスワン 小心者さんの映画レビュー(感想・評価)
演技はとてつもなく素晴らしい。が...
初めて予告を観たときには、正直不安しかなかった。どんなに良作であっても、これまでに彼らの作品が忖度や故意のネガキャンによって埋もれてしまうことも多く、題材自体がコントと嘲笑される危険性を持っていたからでもある。
しかし、無意識に植え付けられてきた先入観、その全てを、草彅剛はほんの数分で消し去ってしまった。これまでも草彅の映像作品はいくつも観てきたはずだし、女装コントも沢山見てきたはずなのに、である。
そこには「凪沙」がいた。
草彅だけでなく、他の俳優陣の演技も、まるでドキュメンタリーを見ているかのようにリアリティがあり、自らを取り巻く世界のすぐ隣に、この世界が実在していることに改めて気づかせてくれる。
絶賛レビューはたくさんあがっているし、どれも嘘偽りなく、ほぼ同感である。
しかし残念で仕方がないのは、特に後半、時系列と、それに伴う登場人物の感情の変化が、全くつかめないことだ。
最終的にやむを得ずカットしたのか、元々撮っていないのかは不明だが、あと数分伸ばしてでも、映像として入れるべきだった。
それでも撮影後に書かれたであろうノベライズを手に取れば、映像で明らかに不足している部分を補完でき、凪沙と一果、その他の登場人物達への思い入れは、なおのこと強くなる。
だが、草彅が優しく素直に表現していた部分が、ノベライズでは少し下品なト書になっていたりもして、書き手が潜在的に持っている偏見も垣間見えてしまう残念な部分も。
公開に際し監督自身が何度も自虐的に「不安」を語るのは、脚本の荒さを自ら理解しているからなのか、それとも演者を信用していないからなのか......
この作品を愛し、草彅が「草彅剛の代表作」と言うほどのクオリティにまで引き上げたいと思っている方は、鑑賞後に是非、ノベライズを読んで欲しい。
そしてできればもう一度、映画館で鑑賞し、その細やかな表現を確認して欲しい。
(本来は、ノベライズ無しでも完結されるべき作品でなければと思うのだが。)
いずれにせよ、俳優陣の素晴らしい演技が脚本の稚拙さを遥かに超えているので、鑑賞後の満足度は高い。
草彅剛本人は全く気にしていないと思うが、ぜひこの素晴らしい演技が正しく評価される日本映画界であってほしいと願う。