「戦場の優等生なメロス」1917 命をかけた伝令 masakingさんの映画レビュー(感想・評価)
戦場の優等生なメロス
若手俳優の中でも頭ひとつ抜け出た演技派であるジョージ・マッケイの成長ぶりを見たくて鑑賞。
14.5km先の前線で撤退すると見せかけたドイツ軍の罠にかからんとする同胞に、将軍の突撃中止命令を伝令する若き兵士二人の戦場ロードムービーである。
ひたすらのどかで美しい草原の真っ只中である。名カメラマン、ロジャー・ディーキンスは、その美しい情景を引いて撮ることを得意とする名匠であったはず。ところが本作では、二人の伝令にグッと寄った画が多かった。おかげで、画面から見切れているところに敵がいないかと始終気にしどおし、体に変な力が入った。いつどこから撃たれるかもしれない緊張感を共体験させようという目論見だったのだとしたら、まんまとハマったということだろう。批評などでは長回し中心の撮影方法が話題となっていたが、寄りの画によって視野を限定するための最善の方法として、それが必然的に選択されたということではないか。決して長回しを売りにしようという意図ではなかったと感じた。そんなのはデ・パルマ作品で十分だし、そもそもサム・メンデスはそんな映像作家ではない(と信じたい)。おそらくは彼の祖父であろう方から戦時中のエピソードを聞いたときの臨場感をそのまま作品にしたかったのではないか。サム・メンデス監督が得意とする、凝ったシナリオでなかったのも、そのためだったと思う。
「プラトーン」や「プライベート・ライアン」などのようなドラマチックな展開はない。
戦友を失った悲しみに浸ることすら禁じられた道行で、使った弾薬も、殺した敵兵も、戦争映画の中でも少ない部類(ハクソー・リッジは別にして)に入るだろう。
淡々と任務を遂行するジョージ・マッケイは、過剰な演技を滅多にしない俳優としての資質を存分に発揮していて適役であった。塹壕の中で隠れて暮らす少女と赤子に出会い、束の間の安息を得ても、「行かないで」と言われても、死んだ友との約束を果たすために走り続ける。途中から、完全にメロスだったが、太宰のような照れ隠しの表現は全くない。静かな使命感の灯火を燃やし、走り続ける。
見事伝令の役を勤め上げ、死んだ戦友の兄に最期を看取ったことを伝えた先に、果てしなく広がる美しい草原。カメラマンも、俳優同様にずっと我慢し続けた景色を、ラストシーンで余すところなく描き切った。「これを踏みにじり、汚すのは誰だ?」という静かなメッセージを感じた。どこまでも品のある、優等生な作品である。