「ワンカット(風)戦線技巧と語り伝えるものあり」1917 命をかけた伝令 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ワンカット(風)戦線技巧と語り伝えるものあり
あらすじは副題通り。最前線に居る仲間の兵士を救う伝令を届ける為、若い二人の兵士が戦地を駆ける。
非常にシンプルで分かり易いが、はっきり言ってストーリーは特別目新しいものではない。何故脚本賞にノミネートされたのか疑問。
しかし…
『プライベート・ライアン』『ブラックホーク・ダウン』『ダンケルク』…数年に一本、革命的とも言える“体感する”戦争映画が誕生するが、本作も間違いなくそれらに並ぶ。
何なんだ、この圧倒的な臨場感、緊迫感は…!
終始目が釘付け。2時間の戦争擬似体験があっという間だった。
気付いたら、飲み物を飲む事すら忘れていた!
普通だったら、開幕→命令が下り→装備を整え→出発→幾多の危機→途中他の部隊と合流したり→日没や夜明けまでのタイムリミット→そしてクライマックス…それらをカット毎に撮り、編集で繋いでいくのだが、本当にリアルタイムで展開していくのにはたまげた! 私も彼らと一緒になって戦地に居た。
それを体感させてくれたのが、言うまでもないが超話題の“ワンカット風映像”。
何だか誤解されているようだが、2時間全編ワンカットの映像ではない。実際は、7~8分ほどの長回し映像を巧みな編集やCG技術で“ワンカット風”に見せているのだ。(またしても日本の配給会社は嘘宣伝…)
一部では2時間全て完全ワンカット映像だったら…という声もあるようだが、幾ら何でもそれは無理。周囲の爆破や目前の戦闘機墜落、日没やどうやっても不可能なタイミングもあるし、それらを何度も何度もリハを重ね、もし失敗でもしたらまた最初からやり直し。これほどの大作だし、どれだけ撮影日数や製作費が掛かる?
それでもこの“ワンカット風映像”は驚異的…! 一体何処で、どうやって繋いだのか、全く分からないほど。(まあ、一箇所くらいは分かったが)
名カメラマン、ロジャー・ディーキンスの2度目の撮影賞は納得と言うより、当然。
終盤、照明弾により幻想的に浮かび上がったナイトシーンの美しさは、“光と闇のコントラスト”と呼ばれる氏の手腕が冴え、あのシーンだけでも賞に値する。
それにしても、以前はあんなに獲れなかったのに、あっさりと2つ目のオスカー…。不思議なもんである。
だけど、音楽のトーマス・ニューマンはこれで15連敗…。この名作曲家にもいつかオスカーを!
戦争映画と言えば、“音”。間違いなく私の周りで、銃弾が飛び交い、爆発が起きていた。
サポート的なリアルなCG。
主演の若手二人、ジョージ・マッケイとディーン・チャールズ・チャップマンの熱演。
『アメリカン・ビューティー』『ロード・トゥ・パーディション』で魅せた卓越と正攻法の人間ドラマ、『007』で魅せた迫力のアクションとスペクタクル描写…。
それらが見事合わさり、纏め上げたサム・メンデスの手腕はキャリアベスト級。
ゴールデン・グローブ賞や製作者組合賞を受賞して大本命視されながらオスカー作品賞は逃したものの、従来なら確実に手にしていただろう。ただ、今回は…。
が、先にも述べたが、戦争映画にまた一本、名作が誕生した。
映像や技術面が高い評価を得ているが、今戦争映画を作る意義もしっかりと込められている。
戦場には、腐乱した死体があちこちに。まさに、地獄絵図。
気の休まるひと時もある。他愛ないお喋り、他の部隊との合流、ある廃屋で出会った若い女性と赤ん坊との交流…。
が、その僅か数分後には再び死と隣り合わせ。
中盤、ある悲劇が。余りにも悲し過ぎる。残酷過ぎる。
助ける為の任務の筈なのに、こちらが犠牲に…。
かくして伝令は届けられた。が、それもあくまで“この時”だけ。戦況はいつまた変わるか分からない。
一体、何の為の任務だったのか。何の為の犠牲だったのか…。
もう一つ、伝えなければならない事が。ひょっとしたら、任務の伝令より辛い事かもしれない。
これが、戦争なのか。
これが、戦争なのだ。
本作は、サム・メンデスが祖父から聞いた話がベースとなっている。
数々の作品を手掛けているメンデスだが、最も作り伝えたかった話のような思いを受けた。
戦争を忘れてはいけない。悲劇、残酷さ、不条理さ…。
それらを語り継いでいかなければならない。
戦争を知らぬ今の多くの我々に届けてくれた、まさしく“命をかけた伝令”であった。
私、普段戦争映画(情報量の多さに脳内パニックに陥ることが多い)では、脳内酸欠を防ぐため必ず飲み物食べ物買って劇場入りするのですが、今回、上映時間を勘違いしていたため、映画泥棒くらいで劇場インのため、手ぶら、、、でも、全然大丈夫でした、見いってしまいました!
全部で何シーンなんだろうとカウントする気でいた手は、✌️のまま忘れていました、、、。