「縦横無尽な神の視点から眺める凄惨極まりない地獄絵図に吐きました」1917 命をかけた伝令 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
縦横無尽な神の視点から眺める凄惨極まりない地獄絵図に吐きました
1917年4月6日、司令部に呼ばれたブレイク上等兵は友人スコフィールド上等兵を伴ってエリンモア将軍から重要な使命を託される。西部戦線で撤退を始めたドイツ軍に追い打ちをかけるべく待機しているD連隊のマッケンジー大佐に攻撃中止を伝えるというもの。ドイツ軍の撤退は罠でありそのまま追撃すると1600名の兵士が危険に晒される、そこにはブレイクの兄もいると。二人の目前にあるのは死屍累々のノーマンズランド、その遥か向こうに展開しているD連隊に追いつくべく二人は塹壕から這い出すが・・・。
予告から滲んでいた通り、これは圧倒的なスケールの戦争大作。本作を観る前に第一次大戦の実録フィルムを膨大な手間をかけて編集した『彼らは生きていた』を観ておいたのは大正解で、本作で描かれるそこら中に転がる兵士達や家畜の屍、そこに群がる肥え太った鼠、破壊し尽くされた街並みといった地獄絵図が極めてリアルであることを思い知りました。全編ワンカットという謳い文句は正直邪魔な情報で、泥塗れの英国軍の塹壕、きちんと整備されたドイツ軍の塹壕、打ち捨てられた農家、撃墜された複葉機、業火に焼かれる村、川面に浮かぶ無数の遺体、灰のように疲れ果てた若い兵士達、それらを縫うように捉える完全なる神の視点から見た戦争の凄惨さを眼球に焼き付けることこそが本作鑑賞の醍醐味。脇を固めているのがコリン・ファース、マーク・ストロング、ベネディクト・カンバーバッチといった英国のベテラン達なので映像の格調高さも相当なもの。本作と比較すべきは全編絵画のようなカットが印象的だった『007 スカイフォール』。監督のサム・メンデスと撮影監督のロジャー・ディーキンスが築き上げた巨大な一枚の壁画のような本作を前に『ゲルニカ』を鑑賞した時と通底した胸苦しさを感じて鑑賞後盛大に吐きました。それくらい圧倒的なメッセージを持った傑作です。
出来る限り大きなスクリーンをなるべく前方の席から観るのがオススメ。『彼らは生きていた』を観ておくと本作では直接語られない当時の様子を踏まえて鑑賞出来るのでより理解が深まると思います。食事は鑑賞後十分時間を空けてからの方がいいでしょう。マジで吐きます。