すばらしき世界のレビュー・感想・評価
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この”素晴らしくない”『すばらしき世界』
13年の刑期を終え出所した、還暦も近い元ヤクザの殺人犯の社会復帰ドラマを描いた本作は、主人公・三上正夫が堅気として一般社会で生きていく過程を、津乃田という一人のルポライターの目を通して描いた作品です。
奇しくも、藤井道人監督の『ヤクザと家族 The Family』に相通じるテーマですが、本作では家族も係累も友人もいない、それゆえに西川美和監督は、徹底して“一般社会の人間”側から捉えたといえます。
本作の映像が一貫して置かれる小説家志望の津乃田の視点、それは小心で臆病で、揉め事から目を逸らし避け通す、世の中のマジョリティーを占める典型的小市民であり、これが世間的価値観の標準的尺度です。
一方で、役所広司扮する主人公のような、正義感が強く猪突猛進の行動力がある熱血漢は、本作では、その暴力性が滑稽で面白可笑しく捉えられこそすれ、決して称賛や憧憬の対象にはしていません。寧ろ引きのショットで冷淡に客観的に撮っています。
劇中で、嘗ての弟分の妻から呟かれる「娑婆は我慢の連続だ。」が象徴的で、彼なりに懸命に奮闘するその生き様には、嘗てのヒーロー物の残像が漂いつつも、只管辛抱と忍耐を強いられる映像には、主人公の葛藤と苦悩と諦観が見てとれ、徐々に小市民化していく姿には虚しく枯れた寂寥感が残ります。
世の中に起きる森羅万象には、大小様々な不満と憤怒と憎悪が蟠り、誰しも鬱々たる思いが滾ることがあります。けれど殆どの人は、それを心中に押し殺し穏便な言動に終始することによって平穏な社会が保たれています。
偉大なる小市民社会にエールを送ると共に、“素晴らしくない”『すばらしき世界』の高質な価値を称えたいと思うしだいです。
あの電話
面白い映画だ!役者の演技がすごい
「いい話」では誤魔化せない映画としての限界
いわゆる「いい話」だ。
人間同士の心の通わせ合いなんて、昔はなんとも思わなかっただろうが、歳のせいもあるんだろう、確かに心に響くところもある。
普遍的で人を選ばないメッセージだ。
社会において大切なものを描いていると思う。
しかし劇として、映画として、面白くない。
どうしてこうも脚本がだらっとするのか。邦画によくある感触。展開のメリハリがとにかく弱い。
映画の中心は必ずしもメッセージである必要はないが、もちろんメッセージを中心に置いてもいい。だが中心のメッセージがしっかりしているからといって、いい映画ではあり得ない。映画として面白いからこそ、より強く、深くメッセージが刺さるはずなんだが。
そしてディテールの欠落。
キャラクターがどれも既視感のある、わかりやすくディフォルメされた人物ばかり。アクションやコメディならまだしも、人間を描く映画で、これはあんまりどうなんだろう。
分かりやすいいい話で、ストーリーも簡易。きっと客も入り、評価もされるだろう。今回の作品の第一目的がそこにあったんだろうことも窺える。
しかし、考えもなしにヤクザの親分に白竜をキャスティングし、風呂場で背中を流し合い、差別者を適当にリアリティなく描き、何の意味もない長澤まさみの役のような存在を放置するといった判断の数々は、決してその影に隠されていいものではない。
邦画界が描く人間ドラマの到達点であり、これが限界点なのだろう。
すばらしき世界のひとつの有り様
役所広司はさすがの演技力でぐいぐい引き込まれた。中野太賀も不器用で実直な青年を演じていてとてもよかった。長澤まさみは、実はこの映画を見ようと思ったひと押しだったけれど出演時間はあまりなかった(目立つから主役でない限りはこのくらいがいいのかな)。
刑務所から出所した人間が堅気の世界に戻って四苦八苦する様子。周囲にとても恵まれて、現実はあのような恵まれた環境にいることができるのかなと思ってしまう。顧問弁護士、役所の担当員、TVディレクター。彼らがいなかったら、ほぼ間違いなく、ヤクザの世界に戻っていったように思う。
感情を押し殺し、いっときの怒りもやり過ごし、平穏に生きようとする堅気の世界の窮屈さ。それをすばらしき世界と呼んでいるような、そんな風に受け止められる。それをヤクザの世界のような暴力に訴えるのでもなく、平穏なやり方で見過ごしていかないようなそんな努力も必要なのかなと思った。それにしても、周りの暖かい人たちには感動させられる。あんな仲間をもちたいと思える。
本当に現代は「すばらしき世界」なのか?
素晴らしき脚本、素晴らしき監督。
西川美和×役所広司という素晴らしきタッグで、待ちに待った本作品。私個人としては、期待を裏切らない素晴らしさで、今年度私アカデミーでは第一位に躍り出ています。
西川美和監督は、光の陰影で物語のキャラクターの心情や環境を表現するのがとても上手いと思います。台詞で無く、光に語らせるような「間」があり、それが例え心の闇を描いているシーンだとしても、見ていてとても心地良いのです。
役所広司さんは変わらず狂気と優しさの狭間を演じさせたら、何時間でもずっと観てられます。ある時は善人に、そして次の瞬間はとてつもない狂人に、画面を見ていて恐怖さえ感じさせてくれる役者さんなどそういないでしょう。
このような映画を観る度に、映画は本当に素晴らしい。
また今度いつこんな作品に出会えるかな、とワクワクします。
全ての映画ファンともしかしたら初めて映画を観る人にも、自信を持っておススメする、素晴らしき、映画です。
最後にタイトルがずっしり響く
この世は「すばらしき世界」だ。
原作の題名「身分帳」をこのタイトルにしたことがすべてを表している気がする。
人はどこで誰から生まれるかは選べない。人生とは時に残酷なものである。でも、毎日は止まることなく訪れるし過ぎていく。生きていかなくてはならない。
格差をはじめ生きづらさが蔓延する現代、嘆くことは簡単だが、世の中捨てたもんじゃない。
努力はきっと誰かが見てくれているし、人の優しさだって溢れている。それに気づけるかが、ささやかな幸せを感じられる秘訣だ。
主人公の三上は善人なのか悪人なのか…どちらもだと思う。それがリアルだし、生々しい人間とは単純に分けられないものだ。
その両面を持ち合わせ、自分の本心を押し殺し、悩みながら必死に生きていく男を見事に生ききった役所広司の芝居に脱帽。それを観るだけでも価値のある作品だ。
すばらしい、の意味。
誰かを助けようとしたのだとしても
大声で怒鳴って威圧したり
暴力で解決しようとしたら
結局は自らが悪者になってしまう。
声を荒げず冷静に対処したり、
関わらないようにするのが
正解なのかもしれないけど
それが上手くできるかできないか。
自分の気持ちを押し殺してまで我慢するのは
正義感がある人ほど辛いことだと思う。
施設のシーンで、殴ってやりたい気持ちを堪えて
主人公が一緒になって笑っている姿を見て、
社会でうまくやるにはこれが正解なんだろうけど
こんな胸糞悪いやつらと一緒になって笑ってるのって
虚しさとか生きづらさを感じるだろうな。
暴力は悪いけど、暴力はふるってないけど
クソみたいなやつなんて世の中には沢山いる。
さいごのカットで、空に降り上げて
すばらしき世界と文字。
うーん、私にはこの世の中を
素晴らしい。という目で見れない。
なんとも報われない世界。
追記
すばらしいの語源は、小さくなる、狭くなるという意味の動詞「すばる(窄)」からだという説がある。
「すばる」には「すぼる」という語形もあり、その形容詞形「すぼし」は古くから、みすぼらしい、肩身が狭いという意味で使われていた。この意味の例は鎌倉時代の初頭までさかのぼれるので、マイナスの意味のほうが先だった可能性が高い。
肩身の狭い世界か。
ああ、なるほど。納得。
不寛容で排他的な現代を生き抜くには
熱演が圧巻。現代社会でもがく男の、切なすぎる物語。
【賛否両論チェック】
賛:演者さんの怪演・熱演が見事で、思わず圧倒されてしまう。現代社会での社会復帰の難しさや、そんな中でも必死に生きようとする男の姿が、切なく描かれていく。
否:物語自体はかなり淡々と進むので、興味を惹かれないと退屈してしまいそう。暴力シーンやラブシーンもあり。
物語全体を通して、役所広司さんの熱演が見事で、観ていてとても切ない気持ちになってしまいます。綾野剛さん主演の「ヤクザと家族」でもそうでしたが、一度道を外れてしまった者が社会復帰する難しさや厳しさを、非常に身近な物語として感じさせてくれるようです。
ただ、やはり小説の映画化なせいもあってか、ストーリーそのものはとても淡々と進んでいくので、人によっては観ていて退屈してしまうかもしれません。
暴力シーンやラブシーンもあるので、気軽に観られる映画ではありませんが、現代社会で必死にもがこうとする主人公を等身大で描いた作品ですので、是非ご覧になってみて下さい。
死ぬわけにはいかない
スルメの味わい
見終わった後は、なんだかちょっとガッカリした様な不足感があったが、感じた事をまとめようとすると後から後から、あの時のカット台詞動きは、「こんな意味があったのかもしれない」と西川さんの映画は、いつも何かを考えさせ、沢山語りたくなる。スルメの様に味わい深い。
何気ない映像は、絵画的でストーリーを膨らませてくれる。
バス、電車、飛行機が映し出される。
いずれも引きのカメラで遠くから動いている様子を見せる。それは、出所後時間は動いている、変化している事を現し、新しい世界へ行く事を現していると思った。
また、東京タワーとスカイツリーの対比、空、雲、丸い雲の中の青空は、三上が希望に満ちて新しい世界へ歩もうとしている事をイメージさせた。
出所後、社会からの疎外感から、昔の仲間に再び入ろうとする三上に対して、キムラ緑子扮する女将さんが、「コッチ側で見る空と自由な世界で見る空は違う、だから、帰れ」と劇中で諭す。
中々社会に馴染めて行けない三上だが、彼を心配するヒトは、本当に少しだが、居た。
「カメラ止めて仲裁に入るか、取り続けるのよ、だから中途半端なのよ」と怒鳴られた津乃田役の中野大賀。途中カメラを持って逃げ出したシーンからグッと良くなって来た。
きちんと三上と向き合って痛みを持った彼の人生、出所後の日々を書こうとしていた。
映画の最後は、三上に関わった人達を上空から映す、まるでそこは、未だ狭かったけれど素晴らしかった世界のように。
三上が見た空は、ムショの窓から見たより素晴らしかったはずだ。ヒトは、他者と繋がってこそ生きる、生かされていく。コミュニティの中の自分。何か失敗をしたヒトでも、それぞれの少しの寛容さがあれば、ちょっとづつ繋がって生き直して行ける筈だと言っている映画だと思った。
対比の妙
「どう生きるか」
自分のこれからを考えちゃう
トーフォーの日にTOHOで この監督クセ者 前作より好きだ ゆれる...
トーフォーの日にTOHOで
この監督クセ者
前作より好きだ
ゆれると同じくらいよかった
役所広司上手いなぁ…
監督が興味ありそうなテーマがちりばめられている
田舎のヤクザ 介護業界 外国人労働者 東日本大震災
それぞれスピンアウトで1本の作品ができそうだ
宮城生まれのソープ嬢の話とか観たい
共演者も多彩
オラが好きな北村有起哉 いい役で嬉しい
梶芽衣子妙演
あと長澤まさみ ありがとうございます
いつの間にかこの監督と伍する女優になっていた
若いディレクターに放つ啖呵は本質
ある意味監督の分身かもしれない
タイトルは皮肉めいていながらストレート
主人公が感じたシャバの出来事はシャブより気持ちよかった
商店街を疾走する姿は素晴らしかった
映画終了後
暖かくなったし気分が良くて駅のベンチで昼間から缶ビール
ノーマスク これまたすばらしき世界だ 鳩が寄ってきた
果たして「すばらしき世界」とは
『ヤクザと家族』も鑑賞済みで、とても素晴らしかったので気になっていたこちらも鑑賞。
どちらもヤクザの世界から身を引き社会に馴染んで生きていこうとする男の話ですが、前者はとことん社会に受け入れられず、居場所を探してもがく姿がとても切なかったのですが、今作はやはりなかなか社会に馴染めないものの(そもそも短気でキレやすい主人公の性格もあり)、周りに助けてくれる人が次々と現れる。必死に自制心を働かせてやっと手に入れた「普通」の生活であったはずが、、
ラストを見終わって「すばらしき世界」というタイトルは皮肉だったのかと思うほど、今のこの世の中が本当に素晴らしいものなのか考えさせられる。
暴力や力で人を捩じ伏せようとすることはどんなに相手が間違っていてもダメはダメ。でも見て見ぬふりをしたり、相手に合わせて愛想笑いすることが本当に正しいのか。
出演者が脇役やチョイ役の方含めて全員上手い方ばかりなので入り込めたし、やっぱり役所広司さんはスゴい。あと大賀さんもとても良かったです。
もうすぐ終わりそうなので映画館で観れてよかった。
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