すばらしき世界のレビュー・感想・評価
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すばらしき映画
リアル、ポイントは以下だ。
空を見ようと思った
ハッピーエンド
それでも、空が広い
やりきれないこの思い、一体どうしたらいいの
かなしい、くやしい、やりきれない、なんで、どうして。怒りと悲しみ…なんだかよく分からない感情が渦巻いて、心が苦しくなる。涙がぼろぼろ溢れて、ハンカチをぎゅっと握りしめて、くやしい…かなしい…って、身体を震わせて泣いてしまう。全身全霊で。
これからってときに、どうして、そんな意地悪をするの。神様。もっと見守ろう、堅気の世界で生き抜く姿を見届けよう、そんなふうには思わないの。神様。
正夫は、人として、いけないことをたくさんした。たくさんたくさんした。堅気として、堅気の人間に支えられながら、不器用ながらに穏やかに生活している正夫を許せなかったですか。
幼い頃に親から愛情を感じられなかった者は、暴力などの非行に走ってしまうという統計が出ているらしい。角田が図書館でネグレクトのことについて調べていて、電話でそれを正夫に教えていた。母のことや、自身の行動の痛いところを突かれ、正夫はもうなにもかもがどうでもよくなって、つくっていたカップラーメンを部屋にぶちまけて、あの世界に帰ってしまった。でも姐さんはやさしかった。この世界に帰ってきてはいけないと、ご祝儀袋と一緒に言葉をくれた。そして自由をくれた。
『シャバは我慢の連続ですよ。我慢なんか大して面白くなか。だけど空が広いち言いますよ。ふいにしたらいかんよ。』
正夫は一人で堅気になれたわけではない。まわりの人がいたから、堅気になれた。狭苦しい世界だっかもしれないけれど、幸せは感じていたと思う。スーパーに買い物へ行く。お米を研ぎ、お味噌汁をつくり、卵かけご飯をかっこむ。洗濯物を干す。教習所に通う。普通の昼の仕事をする。ふつうの生活の幸せ。
正夫のまわりにいる人たち、みんな好きだった。好きだった台詞を残しておく。『もう元に戻らないで』と正夫の背中を流す角田。『三上さんは人間が真っ直ぐ過ぎるのよね。私たちってね、もっといいかげんに生きているのよ。あなた自身を大事にしてほしいの。カッとなったら、私たちを思い出して。ね。』弁護士先生の奥さん。『本当に必要とすること以外切り捨てていかないと自分の身を守れないから、全てに関われるほど人間は強くないんだ。逃げるのは敗北じゃないぞ、勇気ある撤退なんて言葉もあるだろう。逃げてこそ、また次に挑める。』弁護士先生。『向かってきても受け流すんだよ。耳塞ぐ、聞こえないように。深呼吸。』スーパーの店長。
『大事なのは誰かとつながりをもって社会と孤立しないことです。』とケースワーカーの先生は言っていたけれど、正夫はちゃんと大事にできた。だからみんなとつながれて、みんなに就職祝いもしてもらえた。黄色い自転車かっこよかった。心底喜ぶ正夫はまるで、少年のようだった。同じボロアパートの住人に、おはよう!と笑顔で挨拶して、黄色い自転車に乗って会社へ向かった。彼が元反社だなんて、一体誰が思うのか。
本当なら。本当なら。虐めてる奴らに制裁を与えたかっただろう。でも、正夫は堪えた。皆んなの顔を思い浮かべて。陰口を叩き、馬鹿にしてる奴らをポカンとした顔で見つめる。必死に受け流していた。「似てますね…」へらへらと正夫らしくない愛想笑い。暴力でどうにかするしかなかったあの頃の正夫はこのとき死んだ。なんでだかすこし、寂しかった。
嵐が来る前に、と刈り取った秋桜をめいっぱい抱えて微笑む、虐められていた少年。力ではない彼の強さを見た正夫は、自身の小ささと愚かさを感じ、そこはかとない痛みを知る。その痛みは涙となって頬を伝って、沁みていた。
嵐の夜の空気は冷たい。洗濯物を取り込んでいたら、あっという間に雨にまみれた。秋桜と土の匂い。ふぅ…っと息を吐く。きれいな息だ。広い空の下。
すばらしき(この)世界
泣きました
すばらしき映画。
人情とか現代社会の生きづらさ、その中で実際生きて行く人の心の動きを丁寧に描いた作品だ。
役所広司のキレる演技は迫力がある。目の瞳孔を開いて相手を威圧し、地元言葉のように方言を使って相手を罵倒する。それからたまに見せる優しくて穏やかな顔。前を向いて生きようとした時の人間の明るさが目の輝きからすぐにわかる。悩む演技も泣く演技も、"三上"という男の人生を理解していないとあそこまで深みのある演技はできないと思う。役作りとその過程での想像力は並外れたものだし、天下一品だと思う。ここまで幅のある役を圧倒的な存在感で演じきれる俳優は、今の日本じゃこの人を置いて他にいない。
西川美和監督の作品は初めて見た。もちろん役所広司以外の俳優の演技も良かったが、西川美和監督の演出の中でそれぞれの役割を全うしてるという感じ。役者が1番輝くのは、それぞれの役割をしっかり認識した時だと思うが、あんなに豪華俳優陣が集まって誰も他の人の演技を邪魔していないというのは、監督の演出が良いからだと思う。三上が出会う人は一対一で三上と対峙しているから、これで三上が引き立つ。最期三上が亡くなった時は、三上と関わった人が集まって皆故人を黙々と悼む。その時にそれぞれ一人一人が三上に対する想いを頭の中で巡らせて、三上が生きていた時と死んだ後の世界の区別がはっきり現れている。それぞれの役割を適切に分担した上で、人が人と繋がることの意味をより深く探っているような演出をしてるように感じた。単に俯瞰視点だけでは成し得ない演出だと思う。人の心の奥深くに入って、他方で客観的に三上を取り巻く環境を構築していき、なおかつそれが自然に組み合わさってるというのは、人間一人に対して最大限その旨みを出させようとした演出だと言えると思う。
カメラの撮り方も良かった。印象的だったのはまず役所広司の背中だけ映すシーン。初めの方にワンシーン、その後に二つ目のシーンがある。一つ目は三上の中で葛藤とか悩みがある時の寂しい背中。二つ目は風呂の中で仲野太賀が三上の背中を流すシーン。この二つのシーンの対比があったからこそ、三上という人間が前に向かって進んでいるんだなと思わせたんだと思ってる。
それからたびたびある光がぼやけたシーン。万華鏡のようにいろんな光がぼやけて映ってる途中にも、俳優たちの会話は続いてる。だから綺麗な映像の中に俳優たちの声が印象深く残ってるんだと思うし、そのおかげで俳優の顔が見えた時の表情をもっと見たいと思うようになるんだと思う。
また、引きで夜の東京を上空から撮影してるシーンも似たような技法を使ってるんだと思う。ただ前者がより印象・観念の中に三上という実像を映し出していたのに対して、後者は社会の中に1人ポツンと元ヤクザが暮らしてるという寂しさを映し出していたという点で違いがあったと思う。
報われない世界でも 素晴らしき世界へ
久しぶりのすばらしき邦画
胸がつまる映画だ。どの登場人物も存在感がはっきりしていて過剰な演技をしない。これは現在の邦画ではあまり見られないスタイル(最近の邦画は何事もオーバーで見てられない)。西川監督作品は今回がはじめて。人物描画がブレることなく的確に描くから説得力がある。キャメラも秀逸で人間性を鋭く捉え、時折り幻想的かつ詩的なショットを映す。役所広司さんが今回もまた素晴らしい。元ヤクザが直面する現代社会との苦闘を演じているが、役所さん自身の人間性がそこかしこに滲みでている。PERFECTDAYSでも思ったけど役所さんの笑顔はチャップリンのあのチャーミングな笑顔と似ていてほんとに魅力的だ。ラストショットもしごく秀逸。ここでも余計なことは一切しない。悲嘆にくれる人たちをそのまま撮っているから返って強烈だ。また、キムラ緑子さんという女優の演技が強く印象に残った。貫禄や寛容さが濃くて素晴らしかった。こういう邦画がもっと出てくれたら、と願う。
特殊解では済ませたくないとの“すばらしき世界”へのメッセージとの思いに至り…
この公開年、キネマ旬報では、
前評判通りに「ドライブ・マイ・カー」が
第1位に選ばれる中、
選考委員の10点満点を付けた選考委員の多さ
では「ドライブ…」に次いで多かった結果、
第4位に選出された作品。
そして、原作者及び制作陣の想いを
強く感じる作品ではあった。
殺人をよる13年の刑期を終えた主人公が、
彼を社会に迎え入れようとする温かい人々に
支えられ更生を図るという、
正に“すばらしき世界”を希求する想いに
満ちあふれた作品に感じた。
周りの善意の支えられ
更生への強い決意がありながらも、
社会慣習の壁に、
時折、身に付いた暴力性が頭をもたげる。
しかし、最後にはそんな危機も脱して
“すはらしき世界”を感じつつ絶命する主人公
を演じた役所広司の演技力が
作品を支えていた印象。
ただ、どうしても私には特殊ケース的に
感じざるを得ない印象ではあった。
主人公が再度ヤクザ世界に
足を踏み入れそうになった時に
警察のガサ入れで救われることも、
身元引受人夫婦夫妻も、
主人公を取材する男性も、
役所の生活保護担当者も、
スーパーの店長も、
ヤクザ組長の妻も、
主人公の元妻も、
余りにも理解ある人々が
偶然にも周りに居過ぎる設定に違和感が。
現実にはなかなか無いこと
なのだろうな、と。
しかし、特殊ケースだけに
監督はじめスタッフの想いがそこに、
と理解をすべき作品だったのかも知れない、
との思いに至った。
特殊解では済ませたくない
“すばらしき世界”
への期待のメッセージとして。
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