すばらしき世界のレビュー・感想・評価
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薄目を開けて生きていくのができない人なんだなぁ
元反社の人たちの生きづらさを描いた作品。最近よく見かける。
本作はまっすぐで世渡り上手ではない主人公が生きていくには、トラブルは欠かない。
自分自身に重ね合わせてみると、若い頃には、暴力こそないものの理不尽な先輩の言動に、正義感をもって後輩をかばったりしたことがあった。
今は、そういうことをちょっと俯瞰で見て、すぐには反応しない術も持てるようになった。
三上は介護施設で同僚との雑談シーンで、自分を出さず笑っていた。その葛藤に本意ではないだろうなぁと思ってしまう。よく、「大人になれよ」という言葉で処理されていた社会の理不尽や不本意を感じられずにはいられない。
西川監督が、いろんな深い意味や感情を込めた作品で、見応えがありました。
主役だけでなく脇役も光る演技でした。
ラストが・・・
社会復帰に至るまでの道のり、立ちはだかる壁を丁寧に描いた一作。
梶芽衣子が出演しているけど、役所広司と共に悪漢をなぎ倒す…、という展開にはならない(のがちょっと残念)です。
刑期を終えたばかりの元殺人犯の三上(役所広司)が社会復帰を目指して奮闘する、というしっかりとした主筋があり、橋爪功や仲野太賀らがそれぞれの立場から三上に関わる形で物語が展開していきます。
ただこの三上という男は、自身の過去の行いに対して強い言い分を持っていたり、折り目正しい振る舞いをするかと思えば突然粗暴となったり、行方不明となった母を探す口実でマスコミの注目を浴びようとするなど、一筋縄ではいかない側面を持ち合わせています。この複雑な人格の持ち主を、役所広司は実に見事に演じています。
ちょっと軽い口調で人なつこい笑顔を見せる、いわゆるイメージ通りの役所広司を前面に出したかと思えば、次の瞬間には方言丸出しで啖呵を切る…、この振り幅の大きさは観客が三上に全面的に感情移入する予防線となっており、単純なお涙頂戴の人情物とはなっていません(結構喜劇的な場面はあるけど)。時々挿入される、ものすごく遠目から人物を捉えた映像もまた、観客が意識を登場人物から少し引くことを促します。こうした客観的な視点の導入は、本作の原案『身分帳』の作者、佐木隆三の代表作『復讐するは我にあり』を彷彿とさせるものです。
役所広司は当初、自身が演じる三上という役が好きではなかったそうで、西川監督との役作りの過程でキャラクターを取り込んでいったらしいですが、このあたり西川監督の熱意と巧みな手腕のなせる技ですね。暴対法施行後の暴力団員の行く末、という『ヤクザと家族』と共通した要素があるので、見較べてみると、主人公の年齢に応じた状況の相違などが見えて面白いです。落ちぶれた組長が出てくるところも同じ!
秋桜が、とても綺麗だ
昨秋に仲野太賀の主演映画を2本続けて鑑賞した。石井裕也監督の「生きちゃった」と佐藤快磨監督の「泣く子はいねぇが」である。演技は一風変わっていて、無表情というか、空虚な表情をすることが多い。文章では行間を読むという言い方をするが、仲野太賀の演技もそれと同じで、観客が心情を読み取らなければならない。
映画やドラマや芝居では人間は大げさな表情やリアクションをするが、実際は何があっても大抵は無表情である。何かに驚いたときに驚いた顔をする人はまずいない。異物を発見したり変な人を見かけたりしても、驚くより前に自分の安全を真っ先に考えるから、おのずから無表情になる。仲野太賀の演技は実はとてもリアルなのだ。本作品でもその演技が生かされていて、面と向かって非難されても電話でなじられても、たくさんの言い分を全部飲み込んだ無表情で通す。
本物のヤクザを扱った映画では今年(2021年)の1月19日公開の藤井道人監督「ヤクザと家族 The Family」があり、映画の後半では13年間の服役のあとのヤクザの生きづらさを描いていて、本作品と少し似たところがあった。ヤクザの兄貴分で出演していた北村有起哉が、本作品では親切な福祉担当者の役なのも面白い。主演の綾野剛の演技はとてもよかったが、本作品の役所広司が演じた三上正夫には本職のヤクザの凄みがあった。
半グレが幅を利かせてカタギはカタギで理不尽な差別をする。刑務所も酷かったが、娑婆に出ても世の中が酷いことには変わりはない。一匹狼の三上正夫はただ大人しくカタギで生きていきたいだけなのだが、世の中はどこまでも冷酷だ。街角で見かけたカツアゲの場面。糞チンピラども。三上正夫はそれを見逃す訳にはいかない。悪党を成敗するのだ。しかしそれが非難される。一本気な人間には生きづらい世の中だ。
出身地の福岡でもヤクザは警察に追い詰められている。極道にはもはや生きる場所がない。たとえ窮屈でも、カタギで生きていくしかない。非道な場面は見て見ぬ振りをし、同調圧力には従い、差別も我慢する。反社はいつまでも反社として見られるのだ。理不尽なことに対しても声を上げるのは厳禁である。何も見ない、何も聞かない、何も言わない。そうやって無為の人生をやり過ごす。空が広くたって、広いだけでは何の意味もない。三上の心を荒涼とした風が吹き過ぎる。
仲野太賀演じる津乃田が漸く表情を崩す場面が現れる。生きていてほしい。足を洗ったやくざ者。辛くても苦しくても生きていてほしい。三上の人生に意味はなかったかもしれない。しかし三上の人生は三上のものだ。誰にも何も言われたくはない。
冬の雪の中で出所して、今度こそはカタギになると誓い、秋になる頃には娑婆の知り合いも出来たし、身元引受人の先生はそんなに親切でもないが、応援はしてくれる。もしかしたらカタギで生きていけるかもしれない。男一匹、三上正夫。ここで生きる。秋だ。秋桜が、とても綺麗だ。
細部にまで行き届いた見事な演出
この映画は90年代に刊行された原作を、現代に置き換えたのだそう。
主人公・三上が13年の刑期を終え出所すると、東京の街にはその間に建設された"東京スカイツリー"が背景に映し出され、時の流れを感じさせる。
生活保護、近隣住民との軋轢、なかなかうまくいかない就職活動、元妻との別れ…
やがて三上はかつてのヤクザ仲間を頼る。
そのシーンではかつてから存在する"東京タワー"を中心に、俯瞰した長回しで東京の街を映し出す。
何も変わらない東京の街、変わる事ができない男…
しかしクライマックス周辺、
再び三上が未来に向かって前進する場面では、
そっと三上を応援するかのように二人"スカイツリー"が背景に映し出される。
劇中、長澤まさみが沖野太雅に「きちんとカメラを回して伝えることをしろ!それが仕事だろ!」と絶叫しながら説教する印象的なシーン。おそらく、西川監督自身のレンズを通しての自らの仕事に対する葛藤が込められているのだろう。
個人の繊細な内面と残酷な社会との軋轢を見事に描いた、すばらしい作品。
ヤクザと家族と同じテーマだけど、、
偶然なのか、ヤクザと家族と同じテーマです。
もとヤクザの生きにくさの話。
こちららもう少し優しい。
主人公はなかなかのクズ。みてて反吐が出る。
自分の過去を反省せずに、すぐに周りにキレる。こんな人いたら、友達にはなりなくない。
同時に、「世界」もなかなかのクズ。
偏見に満ちていて、住みにくい世界。
ただ、クズのままでは終わらなかった。
切ない。優しい。泣けた。
クズな部分を見ているのでその分ギャップがある。
小学生の歳を聞いて、指を折るところなんて、、、
ヤクザと家族との違って、切ないなぁ。
奥さんから電話があって「もう連絡しないで」なのか「今度ご飯を」と言われるのか。どちらなのか。
ヤクザと家族に比べると味付けが薄いけど出汁が効いている。奥が深いかと。
役所さんは言うまでもないけど、仲野太賀ま凄いなぁ。
電話のシーンと最後のシーンは凄かった。
タイトルの「すばらしき世界」ってなんなんだろう。
ただ、私は三上は最後は幸せだったとも思える。
力になってくれる人。優しくしてくれる人。泣いてくれる人に出会えたのだから。最後の最後まで出会えなかった(気づけなかった)ので不幸とも言えるけど。最後に世界を恨んでいるのか、もう少し生きたかったと思えるのかは、結構な違いだと思う。
終わりよければすべてよし、ではないけど。
「最低な世界」であり、「すばらしき世界」でもあるのかな。
ハッピーエンドではないけど、バットエンドでもないと思うんだけど。
役所広司には惚れ惚れする
役所広司の役所広司による役所広司のための映画。役所さんは1997年に今村昌平監督「うなぎ」で同じ殺人罪の刑期を終えた前科者の役をやっているのだけれど、その頃の役所さんはまさに飛ぶ鳥落とす勢い。前年に「Shall We Dance?」 翌年に「CURE」の主演を演じている。「うなぎ」も今村色は少し軽目ながら、忍耐や怨恨の情念がうごめく映画だったのだけれど、この作品はややコメディにも近い。シャバに出てからの主人公三上に対して、観客が「ああ、そっちへいっちゃだめ~」と声をかけたくなるような映画である。根が純粋で正義感も強いのだけれど、暴力が先走ってしまうが故に殺人の罪を犯してしまった三上。だけれど、役所広司の演技力とオーラは、その三上が人たらしとして輝かせている。本当にチャーミングでセクシーなのだ。出所後、三上は生活保護を受けるが、その状況に憤慨する。高血圧であるが故に医者から安静を求められるけれと、それでも三上は働いて何らかの生きがいを見出すことを強く望む。ところが、仕事はなかなか見つからず、ドライバーになろうとするも、運転免許も失効してしまっているので、学科および技能試験を直に運転免許試験場で受験、いわゆる一発受験に合格するしかない。教習所に通う費用は生活保護費では賄えないからだ。しかし、彼の周りには様々な人が味方になっていく。身元引受人の弁護士・庄司、テレビディレクター津乃田、そしてケースワーカーの井口、当初三上の万引きを疑ったスーパーの経営者松本。みんな彼の魅力に惹かれていくのだが、三上を役所広司が演じると本当に説得力がある。個人的には、助演ではキムラ緑子さんがいい演技をしていたと思う。私は西川美和さんの映画はちょっと狙いが見え透いていて好きではないのだけれど、今回はかなり的確な演出で、とにかく役所広司のすごいオーラと演技力を引き出したという意味で、監督として最高の仕事をしたと言えるだろう。とにかくこの映画は役所広司の映画。
すばらしき世界に想いを馳せる
とても純粋な人、三上は。
母に棄てられ愛に飢えていたぶん、人が与えてくれる優しさは敏感に感じ取る。
人間の美点を知っているからこそ、人が人に危害を与えている場面に出くわすと、その加害者を許せずやっつけ過ぎてしまう。
腕っぷしが強いから、見てる側は(また刑務所戻っちゃうよ!)と心配になる。
職に就けたけど、そこの裏で仲間がリンチしてるのを見てまた…やっつけ過ぎてしまう。てことは無く、自分の良心を押さえ付け身悶える。
このシーンについて鑑賞後、連れに「偶然通り掛かったふりをするだけでも、暴力の抑止になったのにね」と言うと「そんな中途半端に自分を抑えられないんだよ」との返答。なるほどね!
ラストはつらすぎる。
役所広司と仲野太賀の友情がよかった。もちろん六角精児との付き合いも。三上は大声で怒鳴ったりもするけど、それでも仲間は三上を見限らないの良かった。免許センターの女性もか。
薄汚れてる美しい世界
三上のようなまっすぐな人間ほど、
この薄汚れてる社会が生きづらく感じるんだろうなと、
差別や、いじめ、
よくよく思えば、見てみるふりにして、
逃げて、適当に生きるのは、
われわれの普通。
けど、三上の目からみた世界は、
生きづらくて、素晴らしい。
太賀相変わらず安定的にうまかった。
現実はもっと悲惨なのでは、とも思った。
長年の刑罰を終えての出所、保護司との出会い、生活保護受給のありがたみと自尊心の傷、生い立ちに由来する不安定な精神、周囲の色眼鏡、視聴率目当てのメディア、疑似家族として機能する必要悪としてのヤクザ、、、てんこ盛りだった。
役所広司は凄みがあるというよりは、キュートに描かれていた。とにかく、すごいクローズアップに耐えうる顔つき。病んでいるのに精悍というアンビバレントさは、内面の不安定さを見える化していた。
一番印象的だったのは、就職が決まったお祝い会。出所後に知り合ったばかりなのに、深く見知った者同士が狭いアパートに寄りあつまる。手作りのケーキ、ギターに歌、誓いの言葉、、、、、、こんなあたたかいコミュニティ、今どき本当の家族でも経験できないのではないかと羨ましかった。現実に同じような境遇の人間がいたとしたら、主人公のようなひと時の高揚感を一度も味わうことなく、ささくれた心情で余生を生き切る人の方が圧倒的に多いのではないだろうか。
脚本は秀逸だったと思う。特に終盤にかけての伏線の回収。個人的には洗濯物の取り込みが途中で終わったところ以上の室内の生々しいシーンは蛇足っぽかったけど、まあそれも伏線の回収の一部でありました。
最後に、日々自分は「逃げてばかり」だと痛感した。
この世界に居場所を見つけるには
「素直で真っ直ぐで義理堅くやさしい人。それでいて整理整頓が得意」と言われたら、すぐにヤクザだと思う人はいないだろう。
「あり方」だけじゃなく「やり方」を知らないと生きづらい世界なのだと教えてくれる映画だった。
犯罪者や貧困の再生産をしないためにできることは、その人の過去ではなく今望むものに目を向けて、辛抱強く寄り添い、居場所をつくることなのかもしれない。でもそれが、とてつもなく難しい。怖いから。守りたいものを思ってしまうから。
それでもしっかり関わると、この主人公のように、その魅力的な側面が見えてくるんだろう。
「褒められるところに行きたかろ?」という役所さんのセリフが印象的でした。
不寛容な世界で居場所を手にする方法は、ほんとうに他者への無関心しかないんだろうか。
そんな問いを受け取った映画でした。
ひまつぶしの世界を生きて
すばらしき世界とは
殺人を犯し、人生の長い時間を刑務所で過ごした男が数十年ぶりの社会で生きる姿を描いた作品。
今度こそは堅気だと真っ当に生きようと努力する三上が直面する社会での生きづらさ、社会の不寛容さ、元いた世界に戻りかねない危うさが繊細に描かれていると感じた。
犯した罪に対する反省はなく、刑務所に戻らないために社会で堅気として生きると考えていた三上だが、出所後に出会う人々との繋がりの中でその考えは変わっていったのだと思う。直情的な性格の三上だが、その真っ直ぐさや正義感の強さ、人懐こさからか、そんな彼の短気で暴力的な側面も理解した上で支えてくれる人々に出会っていく。三上の人柄をよく理解し信じてくれる人がいたからこそ彼は再び罪を犯すことなく生きることができたのだと思う。
すばらしき世界とはなにか、社会で普通に生きるということはどういうことか。三上が歩き始めた社会は、決して生きやすく全てが正しい世界ではない。介護施設で三上が自らの正義を押し殺し見て見ぬふりをする場面はそれをもっとも象徴して描かれたシーンだったと思うし、観ている人の心にも罪悪感のようなチクッと痛いような感情を抱かせたのではないか。この社会は果たして素晴らしいのかという問いを投げかける映画だったと思う。
三上にも本当にこれが社会で生きる正しさか、という疑問は常にあったのだろうと思う。しかしその中でも社会の一員として人々と繋がり生きていくということ、その喜びを三上は感じ始めていたのではないか。
社会の現実、人の心の機微が繊細に描かれた、考えさせられる一作だった。物語としてストーリーに壮大さこそないが、観終わった後にも私たちの心に小さなしこりを残すような、何とも言えぬ後味がじわりと続くような、そんな作品だったと思う。
最後に、役所広司さんの演技には圧倒されました。
これまでも好きな役者さんでしたが、改めて素晴らしい役者さんだなと実感しました。
一針一針丁寧に縫い上げられたようなすばらしい映画です🪡
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