すばらしき世界のレビュー・感想・評価
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すばらしき世界に想いを馳せる
とても純粋な人、三上は。
母に棄てられ愛に飢えていたぶん、人が与えてくれる優しさは敏感に感じ取る。
人間の美点を知っているからこそ、人が人に危害を与えている場面に出くわすと、その加害者を許せずやっつけ過ぎてしまう。
腕っぷしが強いから、見てる側は(また刑務所戻っちゃうよ!)と心配になる。
職に就けたけど、そこの裏で仲間がリンチしてるのを見てまた…やっつけ過ぎてしまう。てことは無く、自分の良心を押さえ付け身悶える。
このシーンについて鑑賞後、連れに「偶然通り掛かったふりをするだけでも、暴力の抑止になったのにね」と言うと「そんな中途半端に自分を抑えられないんだよ」との返答。なるほどね!
ラストはつらすぎる。
役所広司と仲野太賀の友情がよかった。もちろん六角精児との付き合いも。三上は大声で怒鳴ったりもするけど、それでも仲間は三上を見限らないの良かった。免許センターの女性もか。
薄汚れてる美しい世界
三上のようなまっすぐな人間ほど、
この薄汚れてる社会が生きづらく感じるんだろうなと、
差別や、いじめ、
よくよく思えば、見てみるふりにして、
逃げて、適当に生きるのは、
われわれの普通。
けど、三上の目からみた世界は、
生きづらくて、素晴らしい。
太賀相変わらず安定的にうまかった。
現実はもっと悲惨なのでは、とも思った。
長年の刑罰を終えての出所、保護司との出会い、生活保護受給のありがたみと自尊心の傷、生い立ちに由来する不安定な精神、周囲の色眼鏡、視聴率目当てのメディア、疑似家族として機能する必要悪としてのヤクザ、、、てんこ盛りだった。
役所広司は凄みがあるというよりは、キュートに描かれていた。とにかく、すごいクローズアップに耐えうる顔つき。病んでいるのに精悍というアンビバレントさは、内面の不安定さを見える化していた。
一番印象的だったのは、就職が決まったお祝い会。出所後に知り合ったばかりなのに、深く見知った者同士が狭いアパートに寄りあつまる。手作りのケーキ、ギターに歌、誓いの言葉、、、、、、こんなあたたかいコミュニティ、今どき本当の家族でも経験できないのではないかと羨ましかった。現実に同じような境遇の人間がいたとしたら、主人公のようなひと時の高揚感を一度も味わうことなく、ささくれた心情で余生を生き切る人の方が圧倒的に多いのではないだろうか。
脚本は秀逸だったと思う。特に終盤にかけての伏線の回収。個人的には洗濯物の取り込みが途中で終わったところ以上の室内の生々しいシーンは蛇足っぽかったけど、まあそれも伏線の回収の一部でありました。
最後に、日々自分は「逃げてばかり」だと痛感した。
この世界に居場所を見つけるには
「素直で真っ直ぐで義理堅くやさしい人。それでいて整理整頓が得意」と言われたら、すぐにヤクザだと思う人はいないだろう。
「あり方」だけじゃなく「やり方」を知らないと生きづらい世界なのだと教えてくれる映画だった。
犯罪者や貧困の再生産をしないためにできることは、その人の過去ではなく今望むものに目を向けて、辛抱強く寄り添い、居場所をつくることなのかもしれない。でもそれが、とてつもなく難しい。怖いから。守りたいものを思ってしまうから。
それでもしっかり関わると、この主人公のように、その魅力的な側面が見えてくるんだろう。
「褒められるところに行きたかろ?」という役所さんのセリフが印象的でした。
不寛容な世界で居場所を手にする方法は、ほんとうに他者への無関心しかないんだろうか。
そんな問いを受け取った映画でした。
ひまつぶしの世界を生きて
すばらしき世界とは
殺人を犯し、人生の長い時間を刑務所で過ごした男が数十年ぶりの社会で生きる姿を描いた作品。
今度こそは堅気だと真っ当に生きようと努力する三上が直面する社会での生きづらさ、社会の不寛容さ、元いた世界に戻りかねない危うさが繊細に描かれていると感じた。
犯した罪に対する反省はなく、刑務所に戻らないために社会で堅気として生きると考えていた三上だが、出所後に出会う人々との繋がりの中でその考えは変わっていったのだと思う。直情的な性格の三上だが、その真っ直ぐさや正義感の強さ、人懐こさからか、そんな彼の短気で暴力的な側面も理解した上で支えてくれる人々に出会っていく。三上の人柄をよく理解し信じてくれる人がいたからこそ彼は再び罪を犯すことなく生きることができたのだと思う。
すばらしき世界とはなにか、社会で普通に生きるということはどういうことか。三上が歩き始めた社会は、決して生きやすく全てが正しい世界ではない。介護施設で三上が自らの正義を押し殺し見て見ぬふりをする場面はそれをもっとも象徴して描かれたシーンだったと思うし、観ている人の心にも罪悪感のようなチクッと痛いような感情を抱かせたのではないか。この社会は果たして素晴らしいのかという問いを投げかける映画だったと思う。
三上にも本当にこれが社会で生きる正しさか、という疑問は常にあったのだろうと思う。しかしその中でも社会の一員として人々と繋がり生きていくということ、その喜びを三上は感じ始めていたのではないか。
社会の現実、人の心の機微が繊細に描かれた、考えさせられる一作だった。物語としてストーリーに壮大さこそないが、観終わった後にも私たちの心に小さなしこりを残すような、何とも言えぬ後味がじわりと続くような、そんな作品だったと思う。
最後に、役所広司さんの演技には圧倒されました。
これまでも好きな役者さんでしたが、改めて素晴らしい役者さんだなと実感しました。
一針一針丁寧に縫い上げられたようなすばらしい映画です🪡
三上の存在感が凄かった。オススメします。
佐木隆三の小説「身分帳」を原案にして舞台を原作から約35年後の現代に置き換え西川美和監督が役所広司を主役に
刑期を終えて出所した直情型の孤独な男の再出発と自立の困難さをリアルに描いた傑作です。
原作を先に読んでたので淡々と人間観察を続けた佐木隆三の小説をどうやって映像化するのか興味深かったです。
役所広司が見せる正義感が強い三上という人物が実在する人物のように生々しく感じました。
第56回シカゴ国際映画祭で作品が観客賞を、役所が最優秀演技賞を受賞したのも納得です。
舞台も私の育った荒川付近の下町の近くでしたので感情移入がしやすかったです。
とにかく主人公の周りで見守る登場人物の一人一人が親切で心優しいのに、身の回りの理不尽な出来事に怒りを抑える姿が心に響きます。
梶芽衣子、橋爪功、北村有起哉、六角精児はベテランの落ち着きを感じました。
テレビ局クルーの仲野太賀と長澤まさみの二人が三上の不器用な姿を更に浮きだたせます。
多くの年代層に見てもらいたいお勧め作品です。
原作佐木隆三
つまらなかったよ
期待して観てたから、なんだか、つまらなかったな~。演出がシリアスではなくコメディに感じたけど面白くないんだよな。シリアスなほど人間洞察も深くないしね。主人公がラストで死ぬけど、あざとい演技だわ!一番良かったのは知的障害者のアベさんだよな。予定調和なヤクザを主役に置くより、本当に生きづらさを感じているのは障害者のアベさんだもんな。社会が手をさしのべるべきなのは障害者かもね。今でも社会の障害扱いを受けてるもんね。ヤクザなんて好き勝手に生きてきただけだろ。楽しい人生じゃん、女と遊んでさ、ケンカも強いしさ、人殺しまでできるしさ、最高の人生だったよね。役所広司にとっては、素晴らしき世界だよ。本当にそれはわかった、皮肉じゃないよ。だけど、アベさんにとってはこの世界がどう映ってたのかな~。だけど、アベさんじゃ映画になんねぇ~もんな。ヤクザの役所広司なんて、格好いいじゃん。だからみんな感情移入しやくてさ、高評価になるわけだよね。まったく素晴らしき世界だよ。ありきたりだけどね~
すばらしき俳優陣
何が「すばらしき世界」
矛盾や理不尽さを思い知らされる
現代の日本という「すばらしき世界」
西川美和監督作品は恥ずかしながら1度も観た事が無く、イメージだけだと「音が少なくて静かな作品を作る人」といった感じ。
是枝裕和が「西川美和新章突入」と言っているので作風を変えたのかもしれないけど、思ってたよりもお茶目でリズミカルな作風だった。現代に適応出来ない役所広司の姿は笑えるし、最初の運転のシーンは思わず声が出た。
しかし、笑いというのはいとも簡単に涙に変換されてしまうもの。
現代に適応出来ない姿は時に暴力に変わり、時に苦悶に変わる。
役所広司という役者の感情七変化がなんともリアルで心に刺さるものがある。
個人的な事だけど、役所広司が現代に戸惑っている姿は父を見ているようだった。
だから「あー分かる」と「やっぱりそうなっちゃうのか」などと共感してしまった。
それほど演技が自然体。
「演じていた」ではなく「そこにいた」
ラストはなんとも呆気ないものだが、それこそが人間であり、監督もおそらくあのラストへ向けて脚本を書いただろう。最後に提示されるのは「すばらしき世界」のみ。
自分はこれを"現代日本を皮肉った「すばらしき世界」"と解釈した。
正義を貫けば弾かれることを「すばらしき世界」と皮肉りそのうえで、まだ捨てたもんじゃないひっそりと日々を「すばらしき世界」と表現した。
西川美和は、役所広司は、世界に何を見出しているのか。是非とも聞いてみたい。
西川さんの原点となった、西口彰のドラマ(復讐するは我にあり)に出て...
西川さんの原点となった、西口彰のドラマ(復讐するは我にあり)に出てたときの、役所さんを見たいなと思った。役所さんは、孤狼の血の演技がよくて、黒沢清の映画のようなインテリの役のイメージが強いけど、暴力的な役が十分やれる、得体のしれない人でもあるから、西口の役はやれたと思う。今村-尾崎の尾崎とは違う人間の複雑さは出せたはずだけど、今回の西川さんは、いつもよりは少し狭めた感じ。と同時に、でも、障害者との関係の描きかたはよくて、今の世の中のより過酷な一面は見せてるかと。まさみちゃんは、暴力的で、わけのわからなさを出してるところが、マザーの映画なんかよりずっとよかった。
あとは、かじめいこさんとか(何たってヤクザ映画はお得意)、キムラ緑子さんとかよかった。
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