すばらしき世界のレビュー・感想・評価
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観てきました、素晴らしい映画でした。
深い方向を狙った邦画にありがちな、過激で残酷でムキダシ地獄みたいなものに安易にもっていかず、繊細でリアルな現実を美しい映像で丁寧に描いてありました。同じ手触りでも映画としての着地点がゴチャゴチャしちゃったポンジュノ監督の「パラサイト」よりさらに完成度が高い映画だったので、アカデミー作品賞に選ばれて下さい!って思いました。
不器用で、真っ直ぐな前科者
先日鑑賞した、『ヤクザと家族』もそうだが、こうした男の生き様を美化してはいけないとは思う。どちらも、刑務所から娑婆に出てからの社会の仕組みになかなか適応できない生き難さに、フォーカスしている。しかし、刑務所に入るまでは、人の道を外した生き方をしてきたのだから、そのハンディを負う中で生きなければならないのは、仕方ないことなのだろう。それは、ジェンダー問題とは別物だと思う。
とは言え、そうした男・三上を主人公に据えて、不器用で真っ直ぐな心意気の一人の男の生涯を通して、ヤクザあがりの人間にも、生きていくための受け皿と立ち直る権利が行使できる社会の必要性も、訴えかけてくる。また、三上がヤクザとなった根底には、幼い頃に置き去りにした母のトラウマによるものであるというのは、現代社会への警鐘とも言える。
また、娑婆では外れ者の三上だが、そんな彼に何とか手を差し伸べる人がいるのも事実。今度こそ、真っ当な道に導こうとする人々の優しさと思いやりを通して、観る人の心情に訴えかけてくる、ヒューマン・ドラマとしても、西川監督が仕上げている。何度か熱いモノが込み上げてきて、正にタイトル通りの『すばらしき世界』でエンドロールを迎えて欲しかったのだが…(涙)
そして、何んと言っても役所広司の演技は、やはり素晴らしい。瞬間湯沸かし器のような性格の三上の喜怒哀楽を見事に演じている。ヤクザあがりで現代社会には通用しない男のそこはかとない哀愁を、背中で演じることができる役者は、他にはいないだろう。コメディー、ミステリー、任侠…と、何を演じても一流だ。
もう一人、冴えないジャーナリスト役の中野太賀は、最近、あちこちの作品で重要な脇役として顔を見るようになり、父・中野英雄の血を引く演技で、これから楽しみな俳優だ。
現在日本最強監督の「長い」最新作
役を生きる役所
「娑婆は我慢ばっかりで、我慢したって何もいいことない。けれど空が広...
あっという間の2時間
優しさ+残忍さ=我らが"すばらしき世界"
やはり西川監督の作品は 生々しい
粗暴さから 社会に馴染めず弾かれ
しかし 人の優しさに救われ
自身の正義を曲げて 残忍な市民に同調することで
社会に馴染んで行く
なんと"すばらしき世界"
嗚呼 我らの"すばらしき世界"
劇中 悪意のある人物が 障害者のモノマネをして
周囲を笑わせるシーンがある
そのシーンの時 劇場内の観客の一部がクスクスと笑っていた
あの衝撃と絶望は 今後忘れられないだろう
嗚呼 この世はなんと"すばらしき世界"か
だけじゃない『すばらしき世界』
『ヤクザと家族』にない"社会側への問い"を我々に突き付ける、優しく鋭い傑作
『ヤクザと家族』がハマらなかった私の理由を突く、"社会と犯罪者"を鋭く描いた作品。社会で生きることを望んでいても、レッテルが阻む。そんな中でもがく男の、優しい物語。
元殺人犯の三上は、昔から刑務所にお世話になってきた経歴を持つ。今度ばかりは堅気ぞと括り、社会へと踏み出そうとするが、前途多難。反社のレッテルが剥がれることはなく、世間の受け皿はないに等しい。そんな彼を追うことになったのが、津野田。退職し小説家を志すも、吉澤のパシリのように仕事を頼まれ密着する。序盤はドキュメンタリーのように、三上の人物像を浮かばせる。母を知らず、愛を知らず、仇を取ることでしか手段を知らず。そんな彼に、暖かな人々が手を伸ばす。向き合うべき事に向かわせることしかできないが、実際に主観的になったら、そうなるのだろう。じっくり時間をかけ、解いてゆくしかない。さて、前述した、「『ヤクザと家族』がハマらなかった私の理由を突く」理由はなんだったのかをここで記す。それは、社会が起こすべき態度を描くことで、我々が受け皿として機能することの必然と難しさを同時に描いているかの違いだ。彼らの生き方を抑圧したところで、一般社会がどうあるべきなのかは指南されない。よって、煙たがっては排除する。その葛藤と変化を綴っていたことが、何より作品の暖かみを作っている。そして、我々以上に社会復帰が難しいという現実を突き付けている。
彼にとって、すばらしき世界だったのか。それを問われるのは、我々。生きやすい社会など、端からあるのか。差別や分断は個々人のレベルですら起こるのだから、ますます難しい。何年かけても解けにくい課題を社会に問う、優しく鋭いタッチの傑作だった。
西川美和監督、ベテランの域
下界の空は確かに広い。
人生の大半を塀の中で過ごしたヤクザで元殺人犯の三上。今度こそカタギになると胸に誓い現代社会の中に居場所を作ろうともがく。
そんな三上を利用して番組を作ろうと画策し近寄るTVプロデューサーとディレクターの津乃田。津乃田が覗くカメラに映るまるで子供のように笑顔ではしゃぐ三上。その一方で生き生きとした表情で血生臭い狂気を見せる。突然キレる暴力性と弱者を守ろうとする徹底した正義感。そのバランスがコントロールできない。故に自らの罪に対する罪悪感は皆無。
三上の根底にある優しさを察し彼の自立をサポートしようとする周囲。世間は前科者に甘くない。どうしたって色眼鏡で見られてしまう。それでも耐えて見て見ぬふりをしながら生きてゆくしかない。それが現代社会なのだから。それができなければ彼らの帰る場所は1つしかない。
役所広司だから表現できた三上というキャラクター。そして何より仲野太賀が大健闘!めっちゃ良かった。アパートでケーキを囲むシーンやこども園で三上を見つめる表情が印象的。そしてキムラ緑子さんがこれまた最高だった。
三上という男のなんて憐れで滑稽な人生。それでも彼の元に集った人達の無償の優しさが本物だったことは疑いようもない。下界の空は確かに広い。三上にとってこの世界が素晴らしきものだったかどうか。この社会を生きる一人一人にとってはどうか。今、問いかけられている。
自由で不自由なこの……
刑務所から出てきた元ヤクザの三上の、社会復帰を切り取った物語。主演の三上には役所広司。直情的で子供の頃から家庭に恵まれず、道を外して生きてきた初老の九州男児。
彼に感情移入できるかといえば、なかなか難しい。自分だけの正義を振りかざし、その一点だけで他者を受け入れ無い奴は好きになれない。そんな嫌悪感もいだきながら画面を追うのだけど、それも含めて西川監督の思惑にハマっていくわけだ。
役所広司の演技はもちろん抜群だ。出所して社会復帰を目指すが、性根では何も変わっていない。時折悪たれる姿はとても"憎めない"で済まされる人柄では無い。憎めない悪い奴とか、ヤクザとかいう単純な話ではなく、裏家業で育ってきた、普通の人では無いという異質感を表現できる役者は、そうそういないだろう。
テレビの取材対象として、三上と関わるライターの津乃田(仲野太賀)。当初彼の見せる暴力性に引くが、逆に興味は増してつきあいを深め、心底彼を心配するようになる。作家を目指す貧乏青年。いかにも普通の人物だ。津乃田をはじめとして、三上を応援する周りの面々が、組み上がった城の石垣のように、ガッチリと配置される。
最初は色眼鏡で三上の万引きを疑うスーパーの店主に六角精児、身元引受人の弁護士夫妻に橋爪功と梶芽衣子、津乃田に三上への取材をそそのかすテレビ局員に長澤まさみ、市役所のケースワーカーに北村有起哉など。見ていて安心感しかない。
彼らが普通であればあるほど、そうなれない三上の苛立ちや悪しき所が目立つ。直情的で堪え性の無いところが特に。見ているうちに「それじゃ社会では通用しないよ」という言葉が観ている自分の中で繰り返されるが、そんなしたり顔の大人が言うような言葉に、嫌悪感が生まれる。努力しなければ、なれない普通とはなんだろう。
ラストシーンは、今年一番。ヤクザものの社会復帰という物語を鏡にして、そこに投影された普通の人が自由で不自由なこの「すばらしき世界」って、皮肉な声が響いているように感じた。
すばらしき世界とは?を考えさせる映画
振り子のように問いかけられる
善とは、悪とは、
人生に正解は無い
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