「ただの一市民に"成り上がる"」すばらしき世界 盲田里亭さんの映画レビュー(感想・評価)
ただの一市民に"成り上がる"
真っ直ぐに生きるというのは、軋轢や不寛容に晒されるということだと思う。
役所広司演じる三上という男。極道では無いのだが、目の前の悪を許せない実直な男で、すぐに怒ってしまう。
昭和の典型のような男で、現代であれば「老害」などと揶揄されてしまう男である。しかし、完全なる「老害」などいないのだ。みんな己の正義を持って、だからこそかち合ってしまう。いがみ合ってしまう。「老害」とされる男を描いた作品。
とても良かったシーンは、障害を持った人が三上に花束を渡すのだが、三上の泣きそうで、それでも微笑んでる時の顔。perfect days で役所広司に惚れた私は、この顔が世界で出来るのはただ一人、役所広司だけだと思っている。どれだけの俳優が、泣きそうで、それでも微笑むという顔をできるのだろうか?
惜しかったシーンは、最後に三上は死ぬ必要があったのだろうかという疑問だ。彼は最後社会に適応した。手を差し伸べるべき所で手をさしのべず、違うと思うことを違うと言えずに、ただの一市民となった。私たちはそれを望んでいたし、周りの人達もそれを望んでいた。
三上は悔しかっただろう。「喧嘩のマー坊」と呼ばれた彼が、一回り二回り下の年齢の者に追従する事に。否定できないことに。
しかし、彼は社会で生き始めた。
そんな彼が死ぬ必要があったのか?
「鉄砲玉」としてなら死ぬという終わりが納得できるだろうが、ただの一市民に"成り上がった"彼にその結末は不当では無いのか?
概ね良い作品だった。心に問題を投げかける作品だった。
私はガキなのでハッピーエンドが好きだ。だから4.5にした。