「前科のない人間がまっとうなのかという疑問」すばらしき世界 ぱん田さんの映画レビュー(感想・評価)
前科のない人間がまっとうなのかという疑問
一番印象に残ったのは、介護施設で前科のある障害者の職員を、同僚たちが嘲笑うシーン。
あの職員たちには前科はなく、自分が至極真っ当な人間のような顔をして生活している。もちろん犯罪者を擁護するつもりはないが、罪を償い、社会でまた生きていこうとしている人たちを、『前科がある』というだけであんな不当に扱っていいわけがない。
もちろん警戒心や疑心を抱くことは否定しない。必要以上に距離を縮めないことも。仕事でミスをしたら指導することだって必要だ。
しかし彼らのように見下し、差別し、卑しめるようなことは、許されないと思う。何よりもあの場にいた職員4人共に、なんの罪の意識もないことが許せなかった。まるで『犯罪者には何を言っても許される』とでも思っているようにも見えた。
彼らに前科はなくとも、私の目には犯罪者と同じくらい軽蔑に値する人間に映った。
そして『前科持ちになるということ』について。
前科がある人間が社会で生きていくことの難しさ、辛さがつまっていた。三上は人に恵まれ、組に戻ったり、再犯を犯すことはなかったが、そんなにうまくいかないのが現実なのかも知れない。自業自得といえばそれまでだし、前科があるという生きにくさを抱え、時には我慢し、生きていくしかないのだとも思う。
犯罪者はきっとみんな、そんなことは想像せずに罪に手を染めるのだろう。一度も犯罪に手を染めないで生きることが何よりも一番楽な人生なのに、目の前の欲に負けて罪を犯す。その先にはもっと生きにくく、辛い人生があるのに。
ラストの展開は、三上が世の中でうまく生きていくための処世術を身につけたが故にあの結末なってしまったのか?もしくは結局どんなに足掻いて努力しても幸せにはなれないということなのか?と考えさせられた。
わたしは前者だと信じたい。見て見ぬふりをし、聞こえないふりをする。思ってもいないことを言い、笑いたくないのに笑う。そんなことをしていたら心が死んでしまう。ということを本当の死とリンクさせたのではないかと感じた。
全体を通して強く思うのは、世の中のすべての子供が、両親のせめてどちらかだけからでも、十分な愛情と温もりをもらえる世の中になることだ。そして、愛情を注げなかった親の罪は何よりも重い。
役所広司さん、仲野太賀さん
素晴らしい演技でした。特に三上の愛される性格は役所広司でなければ演じられなかったのではないかと思いました。
長澤まさみさんは、個人的にとても好きなので、今回の役柄は見てて複雑な気持ちになりましたが、演技が素晴らしいということですね。
すべてのキャストの方が素敵でした。