「答えのない世界」すばらしき世界 ヤナコさんの映画レビュー(感想・評価)
答えのない世界
ヤクザであり、人生の大半を刑務所内で過ごした主人公が刑期を終えて日常生活を送るが、社会に居場所が見つからない。それどころか、居場所がどんどん無くなっていく・・・
アパート下界住人との騒音トラブル。そこで自分がヤクザであることを利用し、有利な展開にもっていこうとするのは、現代社会においては「弱さ」だと感じる。
一般人はとかくストレスだらけの毎日で、それを我慢したり、いなしたり、何らかの方法で緩和をして生きている。
主人公の三上は、ヤクザ稼業から足を洗っているのにヤクザであることをチラつかせたり、恫喝したりするのは・・・・「弱さ」である。
その「弱さ」からの自業自得で自分の居場所を狭めていることに気がつかない。
とはいえ、幼少期に母親から虐待(若しくは育児放棄)を受けていたような描写もあり、「考えて、判断して、対応する『学力』」が無い。学力は現代社会において大切な「力」のうちの一つだ。 「自業自得」の一言でまとめるのは残酷過ぎる。
彼のことを思って忠告をしてくれたり、助けようとしてくれる人がいるのだが、耳の痛い正論を言うと三上のほうでその気持を拒絶をする。。。。。
主な原因は彼にあるが、現代日本の社会構造にも要因はあると考えさせられる。
そして、物語の後半、覚悟を決めて「今できる限りのペースで強く、この世界で生きていこう」とすることで、彼の人生が好転していくのだが・・・・
介護施設の同僚がいじめを受け、悪口を言われる場面で「我慢をして、いなす」のだが・・・・皮肉なことにそれは「強さ」ではなく「弱さ」なんだよね。でもその強さを持ち合わせ、行動を起こせる人は少数。
そこで同僚を庇うことで全てが円満解決するわけではなく、三上の手に余る状況になっていくのは想像出来る・・・・そこは「学力」ではなく「立ち居振る舞い」の処世術の経験値が必要とされてくるが、三上にはそれはきっと備わっていない・・・・・
そういう複雑な要素などを感じて、考えていると「すばらしき世界」というタイトルが重くのしかかる。一体誰にとって「すばらしき世界」なのかと。
そして、役所広司である。
2024/1「Perfect Days」
2023/12 「孤狼の血」
を見た。3作品全く違う役どころである。演技の事は素人だけど、役所さんの演技、空気感が「凄まじい」ことは判る。
ヤクザでなくても、生活保護受給で「自分で自分の世界を狭めて、苛ついている」人を知っているので、胸にぐっとくる作品でした。ちょっと胸が痛いので2度目は見たいとは今は思えません。