「承認を求め続けた男の物語」すばらしき世界 doronjoさんの映画レビュー(感想・評価)
承認を求め続けた男の物語
テーマは承認されることの大切さ。
* 三上(役所広司)のストーリー
主人公の三上は親からの承認を得られず、放浪した末、承認を与えてくれるヤクザの世界に居場所を見つける。
暴力で「敵」を叩くことで褒めてもらえるんだという世界観は、刑務所で長きを過ごした後でも上書きできなかった。
しかし、出てきたシャバでチンピラを撃退して、得意げに振り返ってみても、褒めてくれるはずの人はそこにはいなかった。
そして福岡で、もう暴力で褒めてもらえる世界ではなくなったのだということを悟る。
そんな彼は、これまでと違うやり方で承認してくれようとする人々によって変わり始める。
* 吉澤(長澤まさみ)のストーリー
三上を承認しない悪役として描かれていたTVプロデューサーの吉澤は三上の対立軸ではない。
彼女もまたマスコミというヤクザ界で承認を得るために、平凡な感覚では承認を得にくいような言動をとるようになってしまったという構造は、三上と同じ。
彼女に石を投げる者は、三上に石を投げる者でもあるだろう。
* 津乃田(仲野太賀)のストーリー
三上の部下?の津乃田についてはもう少し分かりやすいキャラ設定があってもよかったかも。
衝動的に危害を加えてくるかもしれない三上に対する愛の強さの出所は少々分かりづらいと感じた。
お風呂でのシーンで彼とその父との関係が暗示されていたのがヒントかも。
不適合者としての自分を三上に代弁させて執筆に昇華させたかったのか、あるいは吉澤の言葉に「俺は彼を救って文も書いて見返す!」となったのか。
* 以下ネタバレ
三上はシャバに出て、たくさんの困難に出会うものの周囲は敵ばかりではないことを知った。
歌のすばらしさ、花や空の美しさを知った。
元気の出るクスリがなくても、(それが親でなくても)自分を応援してくれる人のために頑張れることを知った。
最後、チンピラが仕返しに来て悲劇的なことになるのではないか…といった懸念を観客は持っただろう。
でも、そうはならなかった。
もちろんもっとよい事後ストーリーはあり得ただろうけれど、すばらしき世界の片りんを見つけたことを素直によかった、と思った。
*
今の刑務所はあの頃と違ってもう少し出所後の社会適応を視野にいれて運営されていると知って少し安心。
でも、あんな風に、お母さんみたいに見送ってくれたらまた戻って来たいって思わせてしまうかもね。