「役所広司が凄いのは当然なんだけどさ。視点が完全に「役所寄り」の映画...」すばらしき世界 小磯栄一さんの映画レビュー(感想・評価)
役所広司が凄いのは当然なんだけどさ。視点が完全に「役所寄り」の映画...
役所広司が凄いのは当然なんだけどさ。視点が完全に「役所寄り」の映画、かと思いきや、このひとが出所後に一方的に迫害させて「これでいいのか現代社会」っていう話では全然ない、ったことだ。
出所後に「今度こそ、堅気ぞ」と決意した、わりには、このひとは結構やらかす。次々に起こる困難を、罵声と暴力で解決っしようとする、その衝動がなかなか抑えられない。これは、社会に受け入れられないほうが当たり前だ。そもそも彼は自分がかつて犯した殺人を全く反省していない、自分は正義だったと信じている。だから、正義の名のもとにスイッチが入ってしまう自分の衝動を抑えられない。
あれえ? これは、元殺人犯という特殊な人間の話なのか? いや違うんだ、たぶん。現代に生きる人間は、誰もが三上なんだ、たぶん。
この男が社会に受け入れられようともがく姿は「成長物語」にも見える。
この映画は(たぶん原作者の佐木隆三氏を反映したかのような)崖っぷちルポライターの仲野大賀が、もう一人の主人公である。暴力に恐怖して走って逃げる仲野大賀。取材対象との距離の置き方に悩む仲野大賀。感情移入しすぎて傷ついてしまう仲野大賀。これも他人事ではない。
役所広司を取り巻いているのが、仲野大賀と、弁護士の橋爪功、スーパー店長の六角精児、ってメンバーなのが、またいい。「すばらしき世界」というタイトルは、決して反語でも皮肉でもない、かもしれない、と思わせる瞬間が、確かにある。だからこの映画は愛おしい。