「社会復帰に至るまでの道のり、立ちはだかる壁を丁寧に描いた一作。」すばらしき世界 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
社会復帰に至るまでの道のり、立ちはだかる壁を丁寧に描いた一作。
梶芽衣子が出演しているけど、役所広司と共に悪漢をなぎ倒す…、という展開にはならない(のがちょっと残念)です。
刑期を終えたばかりの元殺人犯の三上(役所広司)が社会復帰を目指して奮闘する、というしっかりとした主筋があり、橋爪功や仲野太賀らがそれぞれの立場から三上に関わる形で物語が展開していきます。
ただこの三上という男は、自身の過去の行いに対して強い言い分を持っていたり、折り目正しい振る舞いをするかと思えば突然粗暴となったり、行方不明となった母を探す口実でマスコミの注目を浴びようとするなど、一筋縄ではいかない側面を持ち合わせています。この複雑な人格の持ち主を、役所広司は実に見事に演じています。
ちょっと軽い口調で人なつこい笑顔を見せる、いわゆるイメージ通りの役所広司を前面に出したかと思えば、次の瞬間には方言丸出しで啖呵を切る…、この振り幅の大きさは観客が三上に全面的に感情移入する予防線となっており、単純なお涙頂戴の人情物とはなっていません(結構喜劇的な場面はあるけど)。時々挿入される、ものすごく遠目から人物を捉えた映像もまた、観客が意識を登場人物から少し引くことを促します。こうした客観的な視点の導入は、本作の原案『身分帳』の作者、佐木隆三の代表作『復讐するは我にあり』を彷彿とさせるものです。
役所広司は当初、自身が演じる三上という役が好きではなかったそうで、西川監督との役作りの過程でキャラクターを取り込んでいったらしいですが、このあたり西川監督の熱意と巧みな手腕のなせる技ですね。暴対法施行後の暴力団員の行く末、という『ヤクザと家族』と共通した要素があるので、見較べてみると、主人公の年齢に応じた状況の相違などが見えて面白いです。落ちぶれた組長が出てくるところも同じ!