「ストレートな疑問」すばらしき世界 コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)
ストレートな疑問
現代社会は、一度レールから外れた人間に対し不寛容で、やり直しが難しいという現実を深堀りしていたように感じました。
先日観た、『ヤクザと家族』にも似たテーマが含まれていましたが、あれとはまた違う描き方。
イギリスの制度批判を描いた、ケン・ローチ監督『わたしは、ダニエル・ブレイク』あたりが、近しいかもしれません。
差別や偏見、暴力から目を背け、見てみぬふりをして生きるのが本当に賢いのか?
トラブルに真正面からぶつかる人間は、(暴力しか解決方法を知らないとはいえ)悪なのか?
そして制度側にいる公務員は、法律を順守しているとはいえ、いつのまにか遵守することが目的となり、困難に直面した個々の人間をないがしろにしていないか?
自己責任論がまかり通り、(例えばコロナで経済的に)困窮した人間を踏みつけにしても心が痛まないような人間が増えていないか?
そういった疑問を、観る人間にストレートにぶつけてきて、胸が痛かったです。
正義と悪の境界線があいまいな、生きにくく醜い混沌とした残酷な「すばらしい世界」を描き切っていて胸が熱くなりました。
そんな世界で、主人公・三上の殺人犯という過去を知っていても、手を差し伸べる人々~ディレクターの津野田(仲野太賀)、スーパーの店長(六角精児)、役所職員の井口(北村有起哉)らの存在が輝いて見えました。
彼らのように、道を踏み外したことのある人へ直接手を差し伸べることはできないかもしれないけれど、少なくとも差別や決めつけはしないで、寛容な心を持ちたいと思いました。