「社会に溶け込む事の意味」すばらしき世界 室木雄太さんの映画レビュー(感想・評価)
社会に溶け込む事の意味
二回目の鑑賞
この原作の映像化、その心境が分かる気でいる。反社でも半グレでも無い人間も、“彼は私だ”との思いで、心握りしめられたカットが幾多あるだろう。その切り取る視点のセンスに惚れ込んで以来、西川美和監督の新作を待ち侘びながら日々を過ごしているとは、決して過言では無い思いだ。時代に即した、社会の片隅で人知れず耐える生活者の心理を投影した、「映画だから問いかけられる人の葛藤と温もり」を、絶えず根底に宿した仕事に共感を重ねてきたからだ。今作でも、都市に内在する新旧の価値観と普遍性、淘汰する事だけで正常は測れない社会の真相。意図的に差込まれるスカイツリーと東京タワーの対比には、その様な心理も掻き立てられる。外の“空は広い”と言う…重ねる辛抱こそ堅気の条件とも人は言う。彼は、最後に耐え抜き、触れた優しさに涙し、希望を抱いた。社会への順応と約束を胸に、嵐を楽しむ筈だった。やがて、心身は耐え切れず八切れとなり嵐は去った… この一連の描写に、社会の一端が濃く注ぎ込まれていると受け止めた。あぁそれでも…無頼で愚直な人生の最期の幕切れには、側で悲しみ俯く人間達が囲んでいた。
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