「【希望のある世界】 」すばらしき世界 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【希望のある世界】
この作品は、佐木隆三さんの「身分帳」が原作で、三上正夫の人物像など原作のイメージ通りだが、ストーリーは結構異なるし、補遺の「行路病死人」の要素も加えた物語となっている。
そして、この身分帳には実際のモデルがいる。
西川美和さんが、この文庫「身分帳」の復刊にあたり寄稿を寄せ、このモデルの方が存命の頃、ドラマ化の話が出たことがあって、佐木さんが、俳優は誰がいいかと聞いたら、高倉健さんと答えたらしいと、そのエピソードを紹介していた。
そして、今回の映画化で、高倉健さんも既に亡くなっているが、西川美和さんは、役所広司さんという随一のキャスティングをしたと胸を張っていた。
今回の作品は、西川美和さんの「ゆれる」や「永い言い訳」が、僕の心の闇や弱さを、キュッとつまみ出すような感覚を覚えたのに対して、アウトサイダーに対して社会がどう向き合うのかを考えさせられる。
(以下、ネタバレ)
物語は、出所後の三上正夫が、自分の置かれた生活保護を受けているという惨めな気持ちや、なかなか入り込めない社会システム・好奇の目に対する怒り、弱者に寄り添おうとする正義から生まれる暴力で解決しようとする衝動と向き合いながら、周囲の協力を徐々に取り付け、社会に溶け込んでいく様が描かれる。
ヤクザ稼業の衰退を目の当たりにし、自分の選択肢が如何に少ないのかを感じ取ったり、幼少期の辛い思い出に触れ泣き崩れたりする様子も、内面の微妙な変化をよく伝えていると思うし、ライターの津乃田と、スーパー店長の松本、ケースワーカー井口との交流が三上正夫の背中を押す様は、胸が熱くなる。
そして、介護施設で疎外されたり、イジメにあっている同僚が、忍耐強く、前を向こうとする姿勢は、三上正夫の生きる最大のヒントになったはずだ。
コスモスの花束。
久美子からの電話。
三上正夫は確信したはずだ。
自分もやっていけると。
帰路、雨の中、一生懸命漕ぐ自転車のペダル。
エンディングは悲しい。
だが、三上が未来を見ながら、こときれたのだとしたら、それは救いだ。
三上正夫の見たのが、「すばらしき世界」だったことを願わずにはいられない。
このモデルになった方も、故郷の福岡に帰ったものの、アパートで病死している。
自然死、孤独死だった。
欧州の一部の国では、再犯を防ぐ目的もあって、収監中の服役者を、完全に塀の中に閉じ込めるのではなく、日中は、受け入れてくれる施設や会社で働く機会を予め与え、社会復帰をスムーズにすることと、社会の側にも出所した人間を受け入れやすくさせるという試みがポピュラーになってきているという話を聞いたことがある。
日本でも小規模だが試みられているはずだ。
暴対法の適用が厳格になったことを考えると、アウトサイダーの更生の方法にも柔軟性や多様性が確保されるべきだと思うし、行政の側が出所後の生活が成り立つようにより積極的に関わる必要性があるのではないかと考える。
そして、それこそ再犯の減少に繋がるのではないか。
アウトサイダーの社会復帰が容易になるのではないのかと思ったりする。
西川美和さんは、「身分帳」で「山川一」だった主人公を「三上正夫」とした動機も語っていた。
もし、興味のある人は、復刊した原作も読んでみて下さい。
ワンコさん、映画見てから直行で本屋で原作買いました。結構、厚いなと思いました。コロナになってから、本があまり読めません。読書は頭も心も使うものだから意外に本は読まれていないのでは、という豊崎由美さんの書評には説得力ありました。本当にそうで、読書は今の時期辛いです。でも、買っておかないといつ絶版になるかわからないし、楽しくワクワクと読める時は必ず来るんだから、と思ってます。
今晩は。
復刊した原作は読んでいませんが、今作品をイロイロ考えながら観たNOBUです。
シンプルな感想は、三上の本当のラストの表情を魅せなかった西川監督の手腕と、孤独死になってもおかしくない状況で、三上が出会った普通の人々が彼を心配して集まって来たシーンでグッと来てしまいました。
この状況下の中、優れた邦画が上映される嬉しさ。
では、又。
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